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インタビューのダイナミズム

複数の専門家に話を聞き構成するページに対し、ひとりにじっくり話を聞くインタビューがある。芸能人、文化人、アスリート、一般人…、もちろんテーマは存在するが、聞きたいことを聞き出す」というより、「人となり」が魅力的に伝わることがインタビューの目的だ。

私が思う“いいインタビュー記事”には3つ要素がある。

まず、新情報や近況がいくつか入っていること(1000字程度の記事ならひとつでもいい)。些細なことでいいので、ファンが「へー、そうなんだー」と思える情報。「最近◯◯に興味があるんですけど〜」「あの映画めちゃくちゃ好きなんです」のようなことは単純に知りたい。

次に、インタビュー全体としてダイナミズムがあること。情報が細切れに並ぶのではなく、全体として繋がり、ひとつのダイナミズム、エネルギーのうねりが生まれているような記事に当たると短編小説を読んだような達成感と満足感がある。これは文章の構成力にもよるが、実は現場のインタビュー力のほうが大きい。

最後に、現場の空気感、その人のたたずまいが感じられること。その人が入ってきた時、話している時の描写を入れてもいい。スタッフとの会話や現場のエピソードを入れてもいい。さらに、そういった直接的な表現がなくても、インタビューの内容で、その場の空気感が伝わる記事を読むと、さすが!とうなる。

この3つの要素を叶えるインタビューのコツは、会話の流れに乗り、会話を深めること。会話が盛り上がってこそ、情報の質も量も上がり、インタビューにダイナミズムが生まれ、特筆すべき空気感になる。

インタビューにおける下取材は、取材相手の著書を読んだり、直近のニュースやSNSを調べたり、CDを聴いたり、出演作を見たり、徹底的に調べること。取材相手の印象に残った発言をメモし、ライターと共に質問内容と流れを考える。「テーマが“コミュニケーション力”だから、最初に今回の映画の撮影の様子を聞いて共演者からの流れで交友関係や家族観をメインにできるといいね」などと確認する。

取材相手から質問リストを前もって提出することが時に求められるが、それは「例のスキャンダルには触れませんよ」という一種、宣誓書のようなものだと思う。箇条書きの質問リストを作っても、その通りに進行しようとは思わないほうがいい。会話は出たとこ勝負、ライターと共有するのは、あくまで幅を持たせた質問内容の確認だ。会話がどう流れても対応できるように、取材相手の発言など資料は万端揃えておき、会話の途中で引き出せるようにしておくのが理想的な準備だ。

インタビューが始まり、まずテーマを伝え、予定どおり映画の撮影の様子を聞く。すると「ロケ場所の近くに河原があって休憩になると頻繁に行ってたんですよ」という話になったとする。「へー、そうなんですか。ところで共演した○○さんとは仲がいいんですか」「ちなみに、ご家族の話を伺ってもいいですか」などと無理に予定した質問に戻してしまうライターがいるが、そこは、河原の話を膨らませないと、もったいない。わざわざ河原の話を出したということは何かしら(もしかすると本人も気づかず潜在的に)意味があるのかもしれない。どんな河原か、ひとりで行くのか、なぜ行くのか、そこで何を考えたのか…。相手の話をよく聞き、そこから質問する。相手が話しやすいように、相槌を打ったり、同意を伝えたり、自分の例を出してもいい。河原の話が膨らまなければ次の話題に行けばよく、次の話題でも盛り上がらなければ、次の質問をする。

インタビューの早い時間に盛り上がる話題があり、会話が弾み出すと、インタビュー時間内にどんどん関係性がよくなり、ますますいいインタビューになる。質問する側とされる側と思うと、一問一答のインタビューになりがちだが、現場では、あくまで会話だと思い、相手の話の腰を折らず、気持ちよく自ら話してもらう。

「新情報や近況をいくつか入れる」と前述したが、河原の話だけでいくつかの情報、その人の志向がうかがえる情報が出てくる可能性も高い。場合によっては、入念に準備した質問内容をひとつも聞かずとも構わない。テーマが“コミュニケーション力”なのだから、そこに結びつくと思えば、交友関係と家族観は聞かなくてもいいのだ。河原のエピソード次第で、「撮影現場での密な人間関係をリセットする場を持つことも大切」なのか、「同じ相手でも公私ともに付き合って初めて見えることもある」なのか、「テーマに結びつくな」と思いながらインタビューを進められればいい。現場で生まれる会話のエネルギーの方向性を感じ、その波に乗れるかどうか。

ひとつ気をつけたいのが、「ん?」と思った時にそのままにしないこと。知識不足で相手が出した例が理解できない時も、相手の話を途中で見失ってしまった時も、恥ずかしからずに、その場で確認しよう。「すみません、それは戦争中のことですか」「ごめんなさい、それを言ったのはAさんですか」と確認することで、もうひとつ新情報を聞けることもある。

「ん?」と思った時に聞き直す勇気、相手の話に集中し会話を進める度胸を支えるのは、やはり入念な準備だ。「もしムッとされたら…」「もし話に詰まったら…」という時に、手元に隠し球(いつでも引き出せる資料)を持っていることは何よりの自信になる。

さて、インタビュー時の記録をどうすればいいのか聞かれることがある。今まで数え切れないほどのインタビューに同席し、また私自身もインタビューをしてきたが、本当にいろいろなスタイルがある。顔も上げず相手の話を速記する人、ICレコーダーを置いてノートは出さない人、パソコンを開き検索もしながら質問する人、いきなり取材相手の著書を積み上げる人…。

私がインタビューをする時は、ICレコーダーを置いてノートも出す。会話に集中することが何より大切だと思うので、相手の眼を見て普通に話をする。話しながら、話題ごとにキーワードだけ、ほとんどノートを見ずにメモをする。「この話、使える」と思ったらマークを入れる。相手の様子や表情も書き留める。後でノートを見ると、「◯◯河原」「ぼっち」「おふくろちゃん」と横書きの単語がタテに並び、「デ」「かみ」と言葉の出だしだけのこともある。

そして、インタビューが終わったら、その日のうちに、なるべく早く、覚えていること、印象に残ったことをわーっと書き出し、ノートの暗号のような文字を補足しておく。「デ」→「ディズニーランドが好きで、その理由は〜」、「か」→「考える時に左手で髪を触るクセがある」など。ノートのメモは時系列のインデックスのような役割になる。「この話、使える」と思いマークを入れた箇所も内容を思い出し書き留めておく。ここまでが、その日のうちにする最低限。

さらに、メモを見ながら、「この話題とこの話題をつないで、これを最後に持ってこよう」と構成まで考えてしまえば言うことはない。現場で生まれる会話のエネルギーのようなことは、残念ながら日が経つごとに記憶が褪せてしまうものだ。また、構成まで作業をしておけば、原稿を書く時にすべてをテープ起こしする必要がない。必要な部分だけ録音を聞き返し、発言を書き起こす。

最後に当たり前すぎるほど当たり前のことを。先日、Twitterで平野啓一郎さんが「「気づきを得られた」っていうのは、人生で1回も使ったことのない言葉だなぁ、と、インタヴューのゲラの中で、僕が言ったことになっている箇所を訂正しつつ思う。。。」と投稿していたが、あってはならないことだ。「えーっと」「あのー」というような言葉を省いたり(ケバ取り)、ら抜き言葉を正したり整文するのは当然だが、発言していない言葉を加えてはいけない。「〜〜〜」はあくまで取材相手が発言したこと、(文脈がそうであるのなら)地の文で「気づきを得られたということか」と書けばいい。ボキャブラリーというのは、ある意味その人の象徴であり、敬意を持って尊重するべきことなのだ。

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