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「辛かったら逃げてもいい」は大人のエゴだよね。【書評】辻村深月『かがみの孤城』

「辛かったら逃げてもいい」。生きる術を知る大人の理屈である。しかし、子供はどうだろう。特に中学生の心の悩みは深い。その一言では効かない。「学校」と「家」以外にそんな場所がどこにある。大人になれば辛い目にあったり、理不尽なことをされたら「辛かったら逃げてもいい」とさかんに言われるようになった。その通りなのだが、子供たちのコミュニティは「親」と「先生」で構成される集団にしか属していない。それゆえ、逃げ場がなく、辛い現実を送る子供たちがほとんどである。


辻村深月著『かがみの孤城』はそんな中学生男女7人が主人公である。


中学に進学したばかりの4月に、安西こころはある理由により不登校に。母に紹介されたフリースクールにも行くことができず、家に引きこもる毎日。5月のある日に突如、自室の鏡から強い光とともに鏡に吸い込まれたこころ。鏡の中に入るとそこはまるでおとぎ話に登場する西洋風のお城だった。そこにはこころと同年代の男女6人がいた。一体彼らはなぜ鏡の中の城にいるのか。


7人の共通点とは。少年少女は何を思い、何を考え、彼らが導き出した答えとは。謎の少女「オオカミ」は一体何者。鏡の中の城は一体何なのか。

その先に希望はあるのか。7人の中学生男女の心の葛藤を描く、中学生の心の病×青春×ファンタジー。すべての謎が直線になって明らかに。


本書は

・今の自分と子供の頃の自分を重ね合わせ、子供の頃のピュアな心を取り戻したい。
・SFチックだけどまるで現実かのような世界観を味わいたい
・子供たちが絶望から立ち上がる姿を目に焼き付けたい
・学校のことで悩みがある人。またはその経験がある人。(ひょっとすると辛い思い出が掘り起こされるかもしれないっていう方がいると思いますが、そんな方でも読んだ後、少し心が晴れる、勇気がもらえる作品かもしれません)
・中学生のお子さんを持つ親世代

そんな方にお勧めしたい本である。

2018年本屋大賞受賞作。みんなに読んでもらいたい本。さすが本屋大賞である。私は本書ではじめて辻村深月さんという作家を知った。調べてみると千葉大学教育学部卒。なるほど。緻密な若者の心理描写、読みやすいやさしい言葉遣いというのは彼女の素養なのかもしれない。「こんな世界があればいいのに」と思わせるファンタジー要素。「大丈夫。生きてていいんだよ」と大人が優しく背中を押してあげたくなる作品です。

本書は552ページの大作。「一気読み必至」とはこういうことか。優しく読みやすい文章。でした。



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