酪農家が真面目に語る「国産チーズが日本の持続可能な酪農のカギを握る!?」
前回、代表の大黒が持続可能な酪農について語りました。酪農業に従事していると、このテーマについては折に触れ考えさせられます。
そこで今回は広報担当の私、松本が“酪農家が真面目に語るシリーズ第2弾”と称して「国産チーズが持続可能な酪農のカギを握る!?」ということについて書きたいと思います。
今日の記事は、先日参加した同業他社と情報交換をする勉強会での内容を参考にしています。
バターには生乳を余らせない役割があるけれど…
以前、バターには生乳の需要と供給のバランスを調整する役割がある、ということについて書きました。
牛乳、乳製品には、原料生乳段階での需要と供給の調整がすぐにはできないという特性があります。そのため、牛から搾られた生乳の量が需要量を上回った場合、余った生乳を保存のきくバターの原料として使い、無駄をなるべく出さないという仕組みがあります。
しかし、この調整もうまくいかなくなることがしばしばあります。
余った生乳が多いからと言って、バターをたくさん作っても、現在のしくみでは必ずしも酪農家の収入が増えるわけではないので、持続可能とは言えません。
あるいはバターにも加工し切れないほど多い場合は、生乳を廃棄するという事態になることも。廃棄ほどもったいないことはないですし、収入の減少は酪農を続けていく上で死活問題です。
バターと同じく、
生乳余りを解消しうる存在がチーズ
そこでバターに加えて生乳の需給の調整役として今注目されているのが、チーズ。バターと同様にチーズも種類によっては長期保存が可能です。
さらに、日本でのチーズの需要は近年増え続けています。食品売り場のチーズコーナーにはいろいろな種類のチーズが並んでいますし、チーズを使った料理を日常的に食べるようになっていますよね。
数字もそれを物語っています。日本国内の乳製品の総需要(2021年・生乳換算、農水省)は、およそ1200万トン、そのうちのおよそ400万トンはチーズが占めています。バターは脱脂粉乳と合わせても190万トン弱で、チーズの方が倍以上も需要があります。
だから生乳が余った場合、それをチーズの製造に使えば無駄なく生乳を使うことができるはずです。
チーズの需要は伸びても
国内の生産力はまだまだ低い
ところが、ここには一つ解決しなければならない問題が。
それは、国内のチーズの生産力です。
実は、400万トンもある日本のチーズの需要のうち90%は海外からの輸入に頼っていて、国産チーズは10%程度の44万トンしかありません。
これは、かつて日本ではチーズの需要がとても少なかったために、チーズの関税が低く設定され、海外から安価で輸入しやすくなっていたという背景があります。
そのため国内にはチーズを作る工場が増えず、もし生乳が余っても、それをチーズに加工できるキャパシティが十分にはない、というのが現状です。国内でのチーズ生産力を強化して、輸入チーズを国産チーズに置き換えていけば、しばしば問題になる生乳余りが解消される可能性があります。
海外からのチーズの価格が
今後、高くなっていくかも!?
別の観点からも、国産チーズを増やしていくべきといえる理由があります。
日本がチーズを輸入している国や地域は主に、EU、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカの4つ。けれど、それぞれに事情を抱えていて、今後、乳製品の供給量が減っていくと思われるのです。
例えばEU内のオランダやニュージーランドでは、酪農の拡大に伴い集約的な生産が増え、排せつ物に起因する河川の水質問題がおこり、酪農に対する風当たりが強くなっています。
オーストラリアでは干ばつが原因で乳牛のエサ不足に陥っていますし、アメリカでは大規模酪農で大量に水を使用しているため、渇水の恐れが指摘されています。
一方、輸入国の需要はますます拡大しています。特に中国では、15年ほど前に乳製品の食中毒事件があって以降、海外の乳製品の需要が一気に高まり、今後も伸びていくと予想されています。
輸出国の供給量が減るかもしれないのに、輸入国の需要が高まれば、当然、乳製品の価格は上がります。また、少ない供給の取り合いにもなって、日本が安定的に輸入することが難しくなるかもしれないのです。
こういった事情からも、日本国内でのチーズ生産を増やしていくことが大切といえます。
チーズ作りを広げることで
酪農を続けられる環境を
先月のこちらの記事の中で、持続可能な酪農には、酪農の経営が持続されることも重要なポイントだとお伝えしました。
経営が持続されるには、収入が安定して保たれることが大切。しかし日本の現状の仕組みでは、飲用牛乳の生乳が余ると酪農の経営がかなりの打撃を受けます。
特にここ数年はコロナ禍や世界情勢の影響で、酪農家を取り巻く状況はますます厳しいものになっています。そこに生乳余りによる打撃が加われば、酪農を続けることが難しくなるケースも出てくるかもしれません。
けれどチーズの生産が活発に行われるように変わっていけば、余った生乳の安定した行き先となり、それによる損害を減らすことができると考えられます。
国もチーズ生産力の強化に
取り組み始めている
明るい兆しもあります。小さなところを含め国内のチーズ工房は少しずつ増えつつあり、2006年には全国に106軒だったのが2020年には332軒と約3倍にもなっています。
さらに国としても国産チーズの競争力を強化すべく、5年前からナチュラルチーズの生産設備に対して支援をする制度を始めています。乳製品等の輸出に対してもさまざまな取り組みが行われています。
実は私たちノースプレインファームでは昔から、余った生乳はチーズ作りに使っています。これは、私たちの製造スタイルでは、チーズを作るのが最も生乳を無駄なく使えるからなのですが、それが持続可能な酪農につながるのだとしたら、今後も守っていきたいと改めて思います。
さらに、いずれはチーズ製造をする酪農家が増えて、海外のチーズのように、牧場ごとに個性の異なるチーズが作られるようになったら楽しいだろうなと個人的に思っています。北海道にも、すでにヨーロッパに引けを取らないチーズ工房がいくつもできていますね。
最後になりましたが、今年もノースプレインファームの記事を読んでいただきありがとうございました。また、noteでの「スキ」やInstagramやXで、私たちの製品や記事の紹介をしていただき大変嬉しいです。社員一同、皆さまからの声を楽しみにしています。
来年も皆さまにおいしい乳製品をお届けできるよう、一つひとつ丁寧に仕事に取り組んでいきたいと思っております。来年もノースプレインファームをどうぞよろしくお願いします。
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