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2023年後半は後悔しないよう計画的に生きろ

 2023年が半分終わったらしい。その事実を知ると謎の焦燥感に駆られるが、一体何故なんだろう。だらけきった生活を今更どうこうできるわけではないが、とはいえ何かしないと落ち着かない。
 今日は日曜日でなにも予定がなかったので、ベッドから一歩も動かずにいようと思っていた。ベッドで、馬鹿みたいに長い海外ドラマでも観始める準備はできていた。でも今日くらいは休日を活動的に送りたいな。よし。そうと決まれば、まず体を起こそう。うん、まあ一旦一話だけ見てからにしようかな……

 気が付くと、陽は真上まで登っていた。しまった! 図られた! これが海外ドラマの呪いか! ……いかんいかん。こんな日々を送ってしまっては2023年が泣くぞ。
 ゾンビみたいにのっそりと立ち上がった私は、まずコーヒーを淹れて席に着いた。別に正直焦燥感などとっくの昔に無くなっているので、このままベッドに戻ってもいい。私の感情は、乙女心や秋の空と同じくらい移ろいやすいのだ。
 ただ、ずっと気になっていることがある。それは、キッチンにあるカラーボックスの汚れだ。上京してからずっと炊飯器や電気ケトル等、食品に関するものの下敷きとして活躍してきたため、もう滅茶苦茶汚い。適宜拭いてやればこうはならなかっただろうに。もうシミとかすごい。ごめん。
 この際カラーボックスを解体して捨ててしまおう。幸い電動ドライバーを最近購入したから、大変な作業にはならないはずだ。
 そして、機能性もおしゃれ度も高いキッチン棚を買おう。そうすれば、料理する楽しさもさらに増して、充実した2023年後半を送れるに違いない。

 私は乗っていたものを一度全て床に置き、空になったカラーボックスをリビングまで運んだ。カラーボックスは十二個のネジで固定されていて、そこさえ外せば簡単にバラバラになった。その後、木板を大きさごとにビニール紐で縛った。作業自体は十分程だっただろうか、あとは粗大ごみの日に出せばいいだけだ。やってしまえばなんとも呆気ない。
 手ごろな充実感が私の中に産まれ、「活動的な休日」を実感することができた。落ち込みがちだった心もどこか晴れやかで、どうやらストレス解消にもなったようだ。こんなことなら、毎週何か解体したくなってきたぞ。来週は何を解体しようかな。机でも解体して、また組み立てようかな。
 おっと。電動ドライバーを空でしゅいんしゅいん回しながら妄想をしていたが、そんな場合ではなかった。次はキッチン棚だ。まずメジャーで測って、うちのキッチンに合う大きさを見定めねばならない。私は部屋の押し入れからいくつか道具を取り出し、キッチンに向かった。

 ガシャン。私はキッチンを見て、ついメジャーを落としてしまった。
 ……どうすんだよ、この食品雑貨の群れ。
 頭が「解体する」で一杯になってしまっていて、後のことを全く考えていなかった。棚を買うまで、カラーボックスに入っていた物を置く場所がない。家具なんて買ってから届くまで一週間くらいかかるし、だからと言って買いに行くための車は無い。確実に詰んでる。
 まあ、まだ使用頻度が少ない物たちはいい。コンロの下の引き出しにでも押し込めばなんとかなるだろう。しかし、炊飯器や電気ケトルはどうする。今日の夜にでも米を炊きたいというのに。
 この事件を解決するために、またカラーボックスを組み立て直すという方法もある。だが、意気消沈した私が今更そんな作業をこなせるわけがない。さっきまで呆気なかったとか言ってた気がするけれど、いざもう一回やるとなると厳しいものがある。普通にめんどくさいし嫌だ。やだやだやだ!
 床に置いて使うにも、キッチンのコンセントは胸の高さにあり、コードの長さが足りない。炊くなら、リビングの隅にあるコンセントを使うしかない。電気ケトルも同様だ。はあ、飯炊きの苦労が今ならわかるよ。まあ当時の下男や下女がこんな苦労をしていたのかは知らんが。

 どう考えても棚が届いてからカラーボックスを解体すべきだった。見切り発車で彼を亡き者にしてしまったことを悔いた。ただの安っぽい箱だと思っていたのに、いなくなってから彼の偉大さに気付くなんて。
 とりあえずさっさと棚を買って、いつもの日常を取り戻そう。とほほ、とんだ2023年後半の始まりだ。そう思いながら、私はリビングの隅にしゃがんで湯が沸くのを待つのであった。
 

こんなところで使うお金があるなら美味しいコーヒーでも飲んでくださいね