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コストコで露呈する貧乏性

 コストコで買うべき商品はティラミスやプルコギではない。絶対にBLTのハイローラーだ。あれ以上に美味いものは、コストコには存在しない。
 トルティーヤにベーコン、レタス、チーズ、トマトがぎっちぎちに詰められ、さっぱりめのマヨネーズがその指揮を執る。ハイローラーは一口食べれば感動する料理……とは言わないが、ついつい何個も食べてしまうタイプだ。
 しかも比較的安い。千六百円で大きいハイローラーが二十個以上入っている。お得だ。コストコの商品は基本的に大容量な分価格が高いのだが、これはかなり安い部類だと思う。是非コストコに行った際はハイローラーを試してほしい。
 それと、勿論上記したティラミスやプルコギも美味い。私も自分へのご褒美に時々買う。

 土曜日、入間市のコストコに行った。
 店頭で会員カードを振りかざしながら、入店する。店員さんは「会員様のおなーりー、ははー」と、首を垂れんばかりにお辞儀してくれた。ふふん、この優越感を得るために年会費として五千円払っていると言っても過言ではない。私を私たらしめるために会員カードが存在し、その効果をいかんなく発揮する場所がここ、コストコなのだ。まあ入店する人全員が会員なのだが。
 入り口付近は家電や季節ものなど、私には必要ない物ばかりだったので、入店するや否やすぐに奥まで進んだ。
 コストコの悪いところは、ついつい要らないものまで買ってしまう点にある。多すぎて消費できないのにあれやこれやとカートに入れてしまってはフードロスの一途を辿るだけだし、金の無駄だ。それになにより、今日は隣のアウトレット・モールで沢山買い物をしてしまったので、持ち合わせがない。だから、必要最低限のものしか買わないと心に決めていた。

 私は冷蔵コーナーで珠玉の一品を選りすぐるため、じっくりと見まわした。
 お寿司、ネタが分厚くていいんだよなあ。ハワイアンサーモンポキも滅茶苦茶美味いし、ロティサリーチキンも安いのに食べ応えが良い。なんだ、美味そうなものばかりじゃないか。くそ、もういっそのこと全部買ってしまおうか。
 ……いや、いかんいかん。つい先ほど決めたばかりじゃないか。ここで思考を止めてしまっては、コスパの高いコストコの買い物、略してコスコスを攻略できない。
 私はカートにハイローラーだけ入れて、その場を後にした。これだけは買おう。千六百円だし、これだけなら家計に大打撃とはならないはずだ。そういえば、コストコの商品はコストコでしか聞かない単語が沢山あって、正直何がどんな味なのかよくわからない。なんなんだろう、ロティサリーって。ハイローラーのハイもわからん。確かに食べた瞬間ハイになれるが、そんな安直な具合でネーミングしたのだろうか。

 まあいい、とりあえず冷蔵コーナーは抜けた。次はパンのコーナーだ。私は恐る恐る足を踏み入れた。
 辺りにはマフィン、クロワッサン、アイリッシュスコーンなど、私を誘惑する商品が数多く並んでいる。ああ、幸せだ。これらは決して自分のパンじゃないのに。
 パンって本当に美味しい。私は炭水化物の中ならパン、米、麺の順で好きだ。最近はパンが美味しすぎてホームベーカリーの購入を検討している。
 そんな私が吟味した結果、手に取ったのはディナーロールだった。結局これよ。
 ディナーロールはコストコに行った人の九割は買うであろう超有名商品で、なんてことのないロールパンだ。しかし、素朴で飾らない味でほんのりと甘く、ふかふかで飽きが来ない。彼らと初めて出会ったのはもう五年以上前だろうか、今ではすっかり私の朝ごはんの定番だ。モーニングロールに名前を変更してほしい。パンは朝食え。
 それとこの商品は三十六個も入っていて五百五十円。もうハチャメチャに安い。こんなに安いと少し不安になるが、美味いから気にしない。

 よし、今日はこれで終わりだ。この二つの商品だけ買って帰ろう。本当は買いたい商品がいくらでもあったけれど、(再三言うが)如何せんアウトレット・モールで色々と買いすぎた。その戒めと思って、仕舞いにする。
 私はレジで会計を済ませ、さっさと家に帰った。賢くコスコスできて良かったな。

 家につき、ハイローラーを冷蔵庫に入れようとした際、レシートがパラっと落ちた。ふむ、一応確認しておくか。コストコのレシートにしては短いレシートを眺めると、会計金額のところに「7078円」と表示されていた。
 あれ、えっと、なんでだ。ハイローラーは千六百円、ディナーロールは五百五十円、計二千円ちょっとなんじゃないのか。私はこの二つしか買ってないぞ。ううん、おかしい。私は詳しくレシートを読み直した。
 ……ああ! なるほど! 年会費の更新料が支払われている。確かに、レジで店員さんがごにょごにょ言っていた気がするな。コストコは常時やかましいし、店員さんはマスクをしていたからよく聴き取れなかったが、このことを言っていたのか。そして私は金額もろくに確認せずにカードで支払ったわけだ。

 あーあ、なんだかすごく損した気分だ。そりゃ払わなければならないお金だけれど、年会費五千円て高すぎるよ。私はてっきり二千円で済んだなとほくほくしていたのに、それが実は七千円の出費だったというのは、非常に心にくるものがある。
 だって年会費を今日買った商品に上乗せする形で計算すると、千六百円だったハイローラーは四千円、五百五十円で買ったディナーロールは三千円なんだもん。全然お得じゃない。超が付くほど高級品だ。
 いやまあ、こんな考え方は不毛であり、無駄であるのは分かっている。分かってはいるが、考えずにはいられない。悲しいかな、やはり貧乏人は損した金額程指を折って数えるものなのだ。

 はあ、この一年はせめてコストコに行く頻度を増やそうと思う。そうすれば商品一個あたりにかかる年会費の金額は徐々に減っていき、ついには気にならない額になるだろう。これでは策略にまんまとハマる自分がコストコの奴隷なんじゃないかと思えてくるが、損を減らすためには仕方がない。私達は既に更新料という強い絆で結ばれている。つまり、私のパートナーはコストコであり、コストコのパートナーは私なのだ。
 ……くそ! これがお前たちのやり方か!


こんなところで使うお金があるなら美味しいコーヒーでも飲んでくださいね