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19 バナナの道

 クァシンはいろんな種類の花を紙に描き写して歩いていました。
 町には一川と呼ばれる川が通っていますが、その一川に沿って南下しているのです。黄色い小さな花や、赤い茎の太い花など、探してみるといくつもありました。

 昼を過ぎた頃でしょうか、風車のついた赤い家を見つけました。
 川辺にポツンとある家です。
 クァシンには気になって訪ねてみることにしました。

 中にいたのは眼鏡をかけ、白衣をまとったた恐竜でした。三本、ツノが生えています。彼は「トリケラ」だと名乗りました。クァシンは彼のことを「トリケラ博士」と呼ぶことにしました。なぜなら彼の家には、無数の試験管やビーカー、それから大きな坩堝や難しい式が書かれた黒板まであったからです。クァシンが中に入った時、トリケラ博士はちょうど坂にボールを転がして、その転がる時間を量っているところでした。

「何をしていたんですか?」

「ああ、これね。ものが落ちる速度を測っていたんだ」

「落ちる速度? 転がってるよ」

「そうやって変換して測ることでより正確に、わかりやすく調べることができるんだ」

 クァシンはトリケラ博士が発見した物が落ちる速度についての法則を長々と聞きました。それはとても面白い話でした。物は落ちます。けれど月も太陽も落ちてきません。それはなぜでしょうか。その謎をトリケラ博士は物体には重力を持つという性質があることと、動いている物と止まっている物の違いから説明したのです。
 代わりにクァシンは花の種類の説明をしました。クァシンは花に形の違いがなぜ生まれるのかという疑問を投げかけました。トリケラ博士は少し考えて、「物事には段階が必要だからだ」と答えた。

「僕が知らない、面白い花とか知らないですか。もっと情報を集めたいんです」

「バナナとかはどうかね。この先の野原を越えて、さらに二川を渡った先にバナナの道があるんだけどね。そこに生えているバナナという植物は奇妙で面白いよ。私もね、小腹が空いた時はそこへ行っておやつを食べるんだ」

 クァシンはトリケラ博士の家をあとにしました。
 そして聞いた通りに行ってみるとバナナの道にたどり着きました。人が一人通れるくらいの土の道の両側に、壁としてそびえるみたいにバナナの木が並んでいます。そのバナナの木の形状、葉の大きさにクァシンは衝撃を受けました。紙にイラストから思い付きの発想から色々なメモを書きました。
 圧倒されながら観察しいしい道を歩いたのです。

 途中でクァシンは振り返りました。後ろから指で突かれたからです。とても控えめに突かれたので、最初は勘違いかと思い無視してしまったほどです。
 振り返って見てみると、少女がいました。白い服を着た、小麦色の肌の、黒髪のふさふさした背の低い少女。

「どうかしたかい」

 少女は何も答えません。

「僕に用があるんだよね」

 少女は頷きました。
 それからクァシンは話を聞こうと待ちましたがいくら待っても少女は話し始めません。

(ん? ……喋らない。……もしかして、喋れないのかな?)

 とクァシンは思いました。
 そしてその予想は当たりました。

「喋れないの?」

 そう聞くと少女はうなずいたのです。
 それからクァシンはイエスかノーかの反応を見て、彼女のクァシンに対する用件を当てるためいろんな質問をしました。

「そうか。ここらへんなのかな。ん、ここ? ここで暮らしてるの? そうなんだね。 丸いもの、違う。やわらかい……ほんわか。僕から質問してジャンルを狭めた方が良さそうだね。かい? ……だい? ……うーんちょっと難しいな。僕にしてほしいことがある?……案内してくれるのかな。ありがとう。とりあえず案内してくれるんだね。案内がてら……うん、話はそのほかにあるんだよね。まず……三つ? 四つ? あ、三つ。わかった」

 二人は並んで歩きました。少女は木にのぼってクァシンにバナナをとってくれました。そして自分の開けた口を指さします。

「食べたいの? 違う。これが食べれるっていうことを教えてくれてるのかな。なるほど、そうなんだね、ありがとう」
 クァシンはバナナを食べて驚きました。「なにこれ、すごくおいしいよ。ああ、トリケラ博士が食べられると言っていたのは、これのことか」

 少女は微笑んでいます。彼女はまた木にのぼって、たくさんバナナをとってクァシンに渡しました。
 持ちきれないくらいにたくさんバナナをもらったクァシンはバナナの道の終わる頃、彼女に名前はあるかと聞きました。
 少女は首をふりました。

「じゃあ、フルリールはどう?」

 少女は微笑みながらうなずきました。

「バナナの少女フルリールだね」

 フルリールは別れ際、クァシンの肩を叩いて、九六山脈の方を指差しました。そして再びたくさんのことをジェスチャーで伝えようとしました。
 最初はそのメッセージを読みとるのに苦労していたクァシンでしたが、そのうちに慣れて分かるようになって、

「九六山脈に洞窟があって、そこに行けばいいんだね」

 少女は神妙にうなずきました。

 バナナの道の端から九六山脈は遠くに見えました。フルーリルはバナナの道から一歩も出ませんでした。その場を離れない子なのでしょう。
 となると、クァシン一人で行かなければなりません。

 日が暮れてきてようやく、クァシンは九六山脈の麓に辿り着き、そこに座っていた灰色の人に洞窟の場所を聞いて無事に洞窟をを見つけました。
 洞窟の前に来ると、赤ちゃんの泣き声が聞こえてきました。
 クァシンは、中へ足を踏み入れました。

 洞窟の奥には、ランプが灯っていて、アイとうさぎと赤子がいました。

「アイ、みんな探していたよ」

「うん」

「珍しく、元気をなくしているね」

 クァシンはアイから事情を聞きました。

「なるほどね。とりあえず納得はしたよ」

「でも、ずっとここにはいられない」

「そうだね。とりあえず、帰れないなら、トリケラ博士のところへ寄って、話を聞いてもらおう」

「トリケラ博士?」

「彼なら、中立に判断できると思うんだ」

 二人がトリケラ博士の家に到着したのは、夜も二時間過ぎたころでした。
 博士は実験を終えて読書をしているところでした。
 二人を中に入れると博士は熱いスープを入れてくれました。

「バナナのこと教えてくれてありがとうございます。それと、あそこには女の子も暮らしてましてました」

「ああ、あの子は妖精だよ。バナナの妖精さん。それで、用件とはなんだね」

 アイは子どものことをトリケラ博士に相談してみました。

 しかしトリケラ博士はこう答えました。

「私にとって、子育てなんてものは専門外だから、見ることはできても育てるのは無理かもしれないよ。すまないが、私に頼むなんてのは酷だね。というより、やっぱりその子は町へ持ってゆくのがいいと思うよ。町で生まれたのだからね」

 次の朝、二人は町へ帰りました。
 ちょうど町では舞台が組まれ、そこで演劇が行われていました。
 そこで二人はあるシーンを目にしました。
 そこでこんな言葉を聞いたのです。

「子どもが来たら痛めつけて、俺らの分まで働かせてやろう」

「そうね、いうことを聞くようにするために、しっかりと恐怖心を植え付けるのよ」

「まだ来ねえな。まさか来ないってことはないよな」

「いいえ来ます。だって私たちの順番ですもの」

 この言葉はハリウッド夫婦が行っている演劇のセリフだったのです。アイは演劇を終えたハリウッド夫婦のところへ子どもを連れて行きました。そして、謝ってその子を手渡しました。
 夫婦はアイを許して、喜んで子どもを受け入れたのでした。


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