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eternal flame…永遠の愛 6

~前回のあらすじ~
悦子と恭子はフルガダの空港に到着した。
はしゃぐ恭子とは裏腹に悦子はアミールの行動に
いつも引っかかる思いがあった。
それは国の違いとは何となく違う別な理由…
フルガダの家に着くまで悦子は
今までのアミールとの違和感を手繰り寄せていた…
今回もお楽しみください。


『嫉妬を初めて知る男』

あれは悦子がエジプト再訪の時に
起こった出来事だった。


初めてエジプトを訪れた時は只々、アミールを
アミールという存在を確かめたかった。
理由はそれだけ…。
所詮SNSで知り合った仲、周りの友達には
実際に会うなんてリスクが大きすぎると
止められた。
まして、その頃の悦子は夫も子供もいる身、
誰がどう考えても、もしも…の代償は大きすぎた。

しかし、悦子は全く嫌な予感も愚かな選択だとも
思っていなかった。むしろ、今までの自分の人生をすべて壊しても悔いはない…とさえ思っていた。
大きな声で叫ぶわけでもない、
静かな静かな決意。
それは赤々と燃える炎とは程遠い、
決して消えない蒼白い炎が冷静に悦子の心に
灯っていた。

今思えば、アミールに会ってこの目で確かめたいのは口実で悦子は自分自身を確かめたかったのだろう。
自分を取り戻したかったのかもしれない…

”君の夢は何?”
アミールとのチャットでのやり取り。
彼の言葉が悦子の生き方を目覚めさせたのだ。

「私の夢?」
悦子は自分の夢についてなんて考えたこともなかった。
結婚、出産、子育て、パートで働き…周りからは
幸せな家庭に見えていただろうし、実際、不幸ではなかった。
夫とも喧嘩はあれど、そんなことは夫婦であれば
起こることであって、自分が謝れば済むこと、
我慢すればまた違う明日が来ると信じていた。
我慢の限界が時々来て、子供達の手をひいて何度か家出をしたこともあったが、所詮稼ぎの無い主婦が行きつく先は実家。

母親には「あんたが悪い!早くかえりなさい」と
言われ、その間に夫が迎えに来る。
「迎えに来てくれる旦那なんていないわよ、あんたが謝りなさい」と最後にダメ出しをくらうパターンだ。

この頃から自分の心に蓋をする癖がついてしまったようだ。
家出をしても、心許せる友人に話をしても、
最後には、たしなめられて終わる。

”夫婦なんてそんなもんよ”

ホントだろうか?
結婚前の自分の描いていたパートナーシップと
現実のギャップに疑問も疑問に感じていた時
目の前にアミールが現れた。


「そうね…私の夢は、う…ん、多分、南の島に住めたらいいかなぁ…」
悦子は嘘くさい即席の夢を口走っているという自覚はあった。

「Are you serious? …   からかっているのか!」
突然、アミールが声を荒げた。

「自分の夢に対して ”多分”ってなんだい?もっと自分の夢に責任をもった方がいいよ!」

悦子はショックだった。
アミールが声を荒げたことなんかどうでもよくて、本気で生きていなかった自分がこのアミールの一言でわかってしまった自分にショックだったのだ。

思えばこの時から、悦子はどうすれば自分を生きることができるのだろう?どうすれば自分に還れるのだろう?と考える時間が多くなっていた。

エジプトを初めて訪れた時、悦子は懐かしさで
胸がいっぱいだった。

え?初めて訪れた場所なのに…
自分の足でアフリカ大陸を踏みしめた時、
「ただいま」が咄嗟に口から出た。
そして、涙が溢れ出したのだった。

悦子の頭には何故?がたくさんあったが、
そこを追求するよりも、溢れる涙を
感じていたかった…

胸の真ん中が熱くなって何度も聴こえてくる
誰かの ”ありがとう” 

今でもその声の主はわからない…

初めてのエジプトの翌年も
悦子は再訪を果たした。

アミールに会いたい…前の年の思いは
鳴りを潜めていた。
もちろん彼には会うのだが、今回の目的は
"あの声の主に会いたい、あの声をもう一度”

確かめたかった

会える確証はない、聴こえる確証はない
諦めきれない不確かな思いを探りに
再びエジプトを訪れた。

悦子はカイロにある日本人学校の秋祭りの
ボランティアのために再びエジプトを
訪れた。
日本人ならではの秋祭り…
金魚すくいや射的、たこ焼き、焼きそばなど
異国にいながらも日本を味わえる企画。
そこにはエジプシャンでありながら、
日本語を学ぶ若い学生の姿もあった。

悦子は彼等と交流しながらも
この中に ”あの声”の持ち主がいるのでは?を
思わざるをえなかった。

「いるわけないか…」悦子はボソッと呟いた。

その時、アミールからメッセージが届いた。
”明日のフルガダ行き、友達も一緒に行きたいらしい…僕のオフィスで打合せをしたいから、
今から君を迎えに行く。もう終わりそうだろ?”

強引な男性に憧れてはいた…
悦子の父親はとてもとても強引で人の意見は
聞き入れない人。母が陰で泣いていた姿や、
父と関係がある人たちは皆、閉口していた様子を
幼いころから見ていた。

悦子はいつからかそんな父の強引さが
リーダー、人を引っ張っていく人への憧れに
変っていた。

実際、アミールは経営者。
外国に多い経営のやり方、共同出資者ではあるが、その中でもリーダーだった。

悦子はアミールのメッセージに
”またか…”と思っていた。
強引…自分で完結する人。
心地よくもあり、自分を無視されているような
切なさもあった。

”OK. これからお祭りの片付けがあるから
夜7時はどう?”
この時点で時計は5時を回っていた。

”Noooooooo!"
アミールからは大きなNO!の返信があった。
続けて、
”今すぐに用意して!もうそっちに向かっている"

悦子は大きなため息を何度も吐いた。
確かにカイロの交通渋滞は日本と比べ物にならないくらい悲惨なことは2回目の渡埃で痛いくらい
わかってはいる。
そんなことよりも、悦子の今の状況を完全に無視されていることの悲しさが勝ってた。

望んでいる強引さは違う…
求めている強引さは違う…
この時、悦子は「強引と傲慢」の意味を考えていた。

父は確かに強引だった。
だけど、いつも周りには人が集まっていたし、彼も人の集まる場所へ出向いていた。
好かれる人には好かれるが、嫌われることも同じくらいあった。

今のアミールに対する思いは「傲慢」
悦子を見下しているわけではないにせよ、
自分が一番正しいという『プライド』を感じずにはいられなかった。

しばらくそんなことを考えていて返信を忘れていた悦子のもとに
”今、着いた。正門のところにいるから”
とアミールからメッセージが入った。

悦子の目からは涙がポロポロとこぼれた…

”了解!そちらに向かいます”

悦子は涙でぼやけた文字を必死に目で追いながら
アミールに送信した。

「委員長さん、ごめんなさい…私、急用ができてしまって、 すぐに帰らなければならないのです。片付けもしないで…とても申し訳ないのですが」

悦子の泣き腫らした目を委員長の神崎は見逃さなかった。

「悦ちゃん、疲れちゃったようね。こっちは大丈夫よ。このあと、うちで打ち上げでもしようと思って、旦那にビール冷やしておいて!って連絡したばかり…
めちゃめちゃ残念だけど、明日からのフルガダも楽しんで来てね。今日は本当に助かった!ありがとう。来年もお待ちしてるわよ。」 

神崎はエジプトの日本人会をまとめている
委員長。
エジプトに拠点を持つ日本の企業が
エジプトに転勤となった日本人家族の交流を目的とし、何か緊急時にもお互いを助け合えるようにと設置した会。

ご主人よりも奥様方が活躍しているようだ。

彼女とは共通の友人がいることでSNSで知り合った仲。
神崎がご主人の転勤でエジプトに住んでいること
悦子が昨年エジプトを訪れたことで意気投合し、
秋祭りのボランティアを頼んだのだ。

悦子は神崎の何も事情を聞かない笑顔に
救われた思いだった。

「あの…本当にご、ごめんなさい」
悦子の目から再び涙がこぼれ落ちた。

「悦ちゃんに何があったかは知らないけど、
 全ては上手くいくのよ。
 ご存知かしらぁ〜ここはエジプトよ〜!
 選ばれし者が集う聖地なんざんす!
 多分、彼が待ってるのね〜♡
 さぁ、さぁ!涙を拭いて!
 カイロに戻ってきたらさ、話聞くから」

神崎は首に巻いてあったタオルを
悦子に渡した。

「臭っ!」と悦子はタオルで涙を拭った。

「ちょっとぉ〜タオル返して!」
神崎はゲラゲラと笑い、
悦子は笑いながら泣いた。

悦子はアミールの待つ学校の正門に向かった。
彼の車を見つけ、悦子は大きく手を振って
駆け寄った。
そんな姿は彼に届かず、
アミールは車の中で携帯で誰かと話をしていた。

”また…電話か…”
薄っすらと曇った気持ちを認めたくなかった。

悦子は車の窓をノックした。
アミールは少し驚いたようだったが、すぐに笑顔になった。

「アミール、お待たせ~!」
悦子は努めて明るく接した。

「おかえり、悦子。今日のお祭りは順調に進んだかい?」

「とても大盛況で、みんな楽しんでたし、私も♡
 アミールは?今日も忙しかったの?」

アミールは深いため息をついてから答えた。
「いつもと変わりはないけど、細かなトラブルがあるくらい…
 それより明日のフルガダ行きに友達を連れて行こうと
 思うんだ。一応、彼等には声をかけておいたんだけど…
 悦子はどう思う?」

悦子の心にはザワザワとした風が吹いていた。

”あぁ、やっぱり…
すべてはお膳立てできていたんだ”

 これを事後承諾というのだろう。
 ここまで決まっていたら
 何だか嫌とも、2人きりで行きたいとも言える
 雰囲気ではないような気がして、悦子は咄嗟に

「ね、どうして二人だけではいけないの?」と
静かな抵抗をアミールに見せた。

「今のフルガダのリゾート地はどこも値段が高いんだ。以前行った時よりも数倍滞在費が値上がりしているし、ホテルも一部屋の値段をみんなで折半した方がお得だろ?」
アミールは運転をしながら淡々と答えた。

「確かにそうね…でも…」
悦子は喉に何かが詰まったような感じがして次の一言が出てこなかった。

「でも?何?」
アミールは少し怪訝な顔をして悦子をちらっと見た。

ゴホン、ゴホン…
「でも、2人きりのあの時も良かったわよね!」
笑顔でやり過ごす自分に嫌気がさしたが、
これは必ず良いことに変わる…
神崎のすべては上手くいく!の言葉を思い出していた。

「さぁ!僕のプリンセス、到着したよ」
彼のオフィスが入っているビルの前に車は到着した。


次回、eternal flame…永遠の愛 7
お楽しみに♡







 







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