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eternal flame…永遠の愛 3

~前回のあらすじ~
雑誌記者の恭子の要望でフルガダの自宅を案内することになった悦子。
フルガダに向かう途中の機内での恭子との会話の
やり取りから、初めてエジプトを訪れた時の記憶
を手繰り寄せていた…
そこには切なさ、もどかしさ、人を心から愛おし
く思う感情があった。
アミールと悦子は初めての2人だけの旅に出る…

…今回もお楽しみください☆


「悦子、準備はできたかい?今、ホテルの
 ロビーにいるよ。待ってる」
いつものアミールの声なのに、何故か緊張感
があるように聞こえた。

「準備はOKよ。下に降りたらチャックアウト
 するね」
悦子は大きなスーツケースと一緒に
エレベーターに乗り込んだ。
このエレベーター…まるで鉄格子の作り(笑)
至ってシンプルだが、全てが見えてしまう。
アミールに会うドキドキだか、エレベーター
のドキドキだかよくわからない気持ちに
さえなった。


アミールは悦子のスーツケースを奪うように
車に乗せた。
やっぱり…緊張しているように思える。
昨日のアミールとは少し様子が違う…
悦子は思い切ってアミールに聞いた

「どうしたの?何かあったの?」
一瞬、間があったがアミールは答えた。

「フルガダ行きのバスのチケットが予約
 したはずなのに取れていない…
 早めに行って、カウンターに並ぶしか
 ないんだ…ごめん」
アミールは深いため息をついた。

「そんなこと?あははは!」
悦子は何かもっと重大なトラブルが
あったのかもしれない…と考えていた。

悦子の笑顔を見たアミールもようやく
笑顔になった。
「せっかくの君とのバケーションなのに
 最初からトラブルなんて…がっかり
 させてしまうんじゃないかと思って…
 それに日本人は神経質って聞くし、
 完璧じゃないことに怒り出すんじゃ
 ないかって思ってたんだ」

アミールはいつも正直だ。
でも、日本人はこういうタイプだから…と
言われたことが少し寂しかった。
当たり前だけど、私は日本人であって
変えられない事実ではあるけれど、少し
心の距離感というかボーダーを引かれた
ように感じた。

悦子はそんな些細な事を隠すように
「大丈夫!チケットは絶対に取れるし、
 取れなかったら…その時に考えましょ♡」

大丈夫は悦子自身に言い聞かせている言葉
だと思っていた。
大丈夫、大丈夫、大丈夫。


バスターミナルに着いた。早朝だというのに
たくさんの人でごったがえしている。
バックパッカー、大声で怒鳴りあってる人達
乗り場を探している人、出発前に一服してる人…

朝もやの中のシュールな光景だ。
ここで伝わってきたのは人のエネルギー…
カイロの空港でも似たようなエネルギーを
感じたが、ここでは旅立ちのハングリーな
エネルギーを感じた。
行き先を選んで、自分でバスを見つけて、
その先のまだわからない未来に乗り込む。
それも長い時間をかけて…

「悦子、僕は車を駐車場に止めてくるから
 ここにいてくれ。絶対にここを動くな!
 誰かに声をかけられても絶対に話すな!
 すぐに戻って来るから」

アミールはいつになく真剣な顔で悦子に
告げた。

「大丈夫よ、私はだまってあなたの前から
 いなくなったりしないから。ここで
 待ってる」

このやり取りがのちの展開に繋がっていく
とは、アミールも悦子もわかるはずもなかった


アミールを待っている間、悦子はベンチに
座ってぼんやりとこれからの流れを考えていた。

アミールはどんなつもりで私を誘ったのだろう?
身体だけの関係を望んでいるのか…
親しい友人?日本からのお客様?
今の悦子にはこんな答えしか浮かばない
悦子は頭を大きく横に振った。

日本を旅立つ前に友人から言われたことが
どうしても頭から離れない…
「どうせ身体だけが目的だよ!あとは日本のvisaが
 欲しいのか…まぁ、どちらにせよ悦子が傷つくの
 は目に見えてるよ。悪いこと言わないからさ…
 行くのは止めにしなよ!」

彼女の言葉は単なる脅しではなく、心から心配をしてるからこその言葉だと悦子はわかっていた。
彼女は国際恋愛の末の結婚。
彼の日本滞在のvisaが切れて国に帰ってしまった際、彼女は彼を追いかけて自分の思いを告げ、
結婚に至った。
その一部始終を私はそばで見ていたからこそ
彼女の国際恋愛の苦労、苦悩を知っている本音の
アドバイスが怖かった。

今までの私だったら、多分…潔く渡埃を諦めていただろう。
だけど、今回はアミールを確かめたい…
この目でちゃんと。
傷つくかもしれない、もしかしたら帰って来られないような事件に巻き込まれるかもしれない…
それよりも自分の直感を今は大切にしてあげたい!
本音を彼女にぶつけた。

「わかった、悦子。行ってきなよ、傷ついて
 帰ってきたら、私が抱きしめてあげるから」
何故だかわからないけど、私たちはお互い涙で頬を濡らしてた。



「Hey悦子、何で頭を横に振っていたの?」
いつの間にかアミールが横に座っていた。

「悦子、チケットも無事に取れたよ!これで
 フルガダに行ける!」
アミールは不安な悦子の気持ちをよそに子供のようにはしゃいでいた。

「アミール、ありがとう。フルガダには何時に
 到着するの?」

「6時半出発だから、お昼すぎには到着すると
 思うよ」

「…えーっ!ということは6時間もかかるって
 こと?」
悦子は6時間もアミールと何を話せばいいのだろう?とすっかり不安だらけになっていた。

「トイレ休憩もあるし、心配ないよ。
 楽しみじゃないか!
 6時間も悦子と一緒にいられるんだよ!」
こういうところがたまらなく愛おしく感じる。
彼はシリアスという言葉を知らない…
常に僕はオプティミスティックだ(楽天家)だというだけだ。

早速、バスが来た。アミールはささっとレディーファーストという仕草で悦子を窓際の席に案内した。その横にはアミール。
彼の腕は逞しく、悦子の腕と肩にピタッと密着する。
ただでさえ距離の近さにドキドキしている悦子なのに密着が更にドキドキを助長した。

バスの運転手がパンや飲料水、スナック菓子が入ったランチボックスを配り始めた。
アミールが受け取り、悦子に自分の分も預けて席を立った。
「何?どうしたの?」
悦子の声をよそにアミールはどんどん前の席へと向かう…

悦子は通路側に身を乗り出した。

バスの乗降口で若い男の子たちが口論から喧嘩になりはじめている。どうやら複数人で席の取り合いをしているように見える。
何を怒鳴っているのかはアラビア語だけに全く分からない。
ただ、一人の子が泣き始めてしまい、仲間の相手に殴りかかろうとしている様子はわかった。

その仲介にアミールが入っていた。
両者をなだめて、和解させたようだ…

やれやれといった様子でアミールは悦子の元に戻って来た。
悦子は「この人だ!」と、とても強く感じていたのだ…
理由なんてない、ただこの人なんだ!と。
悦子はアミールに
「どうしたの?彼等は仲直りできたの?」と冷静を装いながら訊ねた。

「どうやら…一人だけの座席の予約が取れていなかったようなんだ。それで誰がカイロに残る?みたいな話になったらしい。それで、一番遅く来た奴は留守番と勝手に早く集まった仲間で決めてしまって、遅れた彼がそんな話は聞いていない!と怒り出したのが事の発端なんだそうだよ…」

アミールは深い深いため息をついた。

「なるほど。で、あなたは何てなだめたの?」

「僕はこうしろ!とか、ああしろ!なんてのは
 言いたくないんだ。
 ただ、僕だったら…楽しい旅にしたいならば、
 みんなで行きたいって思うし、誰一人欠けてもつまらないって思うんじゃないか?
 誰かひとり行けないのならば、
 次の機会を待つよ。

 これを言っただけだよ。
 何にもしてないだろ?」

悦子はわからないけど、胸が熱く張り裂けそうな思いだった。

私も…こんな風に彼らに話しかけるだろうな

「悦子、エジプトではこんな出来事は日常
 なんだよ。どこかで争いがあれば、近くに
 いる人が仲裁に入る。誰ひとりとして、
 見て見ぬふりをしたり、スルーすることは
 ないんだよ。これは小さな頃から当たり前
 に身についていることなんだ」

これは日本とどういう違いなんだろう?
宗教の違い、文化の違い…
悦子は色んな違いを考えていた。
エジプトは昔の昭和を感じさせる…
近所にはお節介なおばさんがいたり、
自分の子供でもないのに悪いことをしたら
我が子のように叱る大人もいた。
核家族化が進んだが故の結果なんだろうか?

難しい顔をしている悦子をアミールは
「体の具合でも悪いの?」と心配した。

「大丈夫よ。素敵な国だなぁって
 感動しちゃったの!
 そして、あなたもよ♡
 私のヒーローだわ」

アミールは座席に深く座り直し、王様の
ようなポーズをとって笑ってみせた。

「さぁ!僕たちのバケーションがはじまるよ!」



次回、eternal flame…永遠の愛 4 
お楽しみに♡









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