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趣味は暮らし うるわしき内に棲まう アフタヌーンティー


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アフタヌーンティー

紅茶とパウンドケーキ


お茶を淹れるのも料理であるというのが私の持論
茶葉にお湯を注ぐだけというシンプルな作業しかないだけの難しい料理です
冬の寒い時期にアラジンのブルーフレームで沸いたお湯で淹れる
アフタヌーンティーは格別です

Maurice


二十年前の私たちの事務所には
いつも何種類かのフレーバーティが置いてありました

なくなるとスタッフの女性たちが交代で
自分の好みのフレーバーティを買ってきて
事務所を訪ねてくる人たち全員にお茶を出していました

タイルの営業マンや銀行員、はては道を聞きにきたおばさんにまでも
お茶を飲みながら彼女たちとしばらく話して

「美味しいお茶をありがとうございました」

と言って帰って行きました

そのうちお茶を目当てにやってくる営業マンもいましたが
彼女たちはニッコリ笑ってお茶を出していました

美味しいお茶のお礼に他の設計事務所の話や
いろんな会社の話をしてくれます

いつも新鮮な情報や面白い話を持ってきてくれます
さらに他所であそこの女性スタッフはいい子ばかりと評判を上げてくれるのでした

半年もするうちに彼女たちは

誰とでも同じ目線でニッコリ微笑んでお話ができる
ステキな女性設計士になっていました

フレーバーティーとマドレーヌ

その頃、短大の女子学生にコンピューター制作を教えていました
CADを使って図面や3Dグラフィックを造ります
まだ手描きが主流でAIなんて言葉もなかった頃です

技術だけにとどまらず、何人もの棟梁たちが教えてくれた
建築の奥義までも惜しみなく教えました

地の声を聞き、天の意に添う


これが棟梁たちが教えてくれた、もの造りの奥義です

地の声を聞く

とゆうのは

周りの状況と環境を知り
関係する人々、周りの人たちに思いを馳せる
さらに地球の声を聞くのです

天の意に添う

とは

天は何処を向いているのか
神様は私たちをどう進化させようとしているのか
神の意図を理解する

そして正しい自分が判断してものを造るのだよ

そうすると天・地・人がそろって間違いのないものができます

不動のバランスが斉うのです

そうして造られたものは

あなたたちを幸せにするからね

と教えました

スコーンにジャムを添えて

そのイタリア料理店は閑静な住宅街の古い高級マンションの半地下にあります
この地域でトップクラスの若手シェフが始めた
グルメ注目のお店
半地下の窓からは登り庭が見える小さな高級店です

ある日
いわゆるグルメでワイン通の方々とディナーにお出かけです
お偉い方々の中で私がいちばん年下

背筋を伸ばしてお食事となりました

食事が進み、ワインが進みます
ワイン通は美味しいワインを次々と開けてゆきます

デザートを食べる頃には結構な酔っぱらいになり、お店を出る準備です
お代を済ませ玄関に向かうと、ホールにいた女性が
Arnysのコートを広げて待っています

「ありがとう」

と袖を通していると肩越しに女性の声が

「先生、ありがとうございました 覚えていますか〇〇です
あの時、先生に教わったから今、私はここにいます
設計したこの店が私を幸せにしてくれました」

「えっ」

ほんの短い間にしてくれた彼女の話しは
私に教わったことで店舗デザインに興味を持ち
店舗設計の会社に就職したそうです

そこではCADを使ってデザインができるのは彼女だけなので
コンピューターを使う仕事は彼女が引き受け
たいそう活躍をしたそうです

ある日、この店のデザイン担当を任されます
こだわりのある若きシェフと何度も打ち合わせをしながら
お店造りを進めてゆきました

そんな中でシェフは彼女の仕事に対する取り組み方、
センス、お客さんに対する真摯な態度をみていました

お店ができた時に

「今の会社を辞めて、私とこの店を一緒にやってほしい」

と言われました

お店はできたのに
こだわりの若きシェフのメガネにかなう人材はいませんでした

まさに、彼女こそがこの店の最後のピースだったのです

冬のダージリンとミルクとスコーン


彼女は結婚して二人でお店を切り盛りしてゆきます
いつしかお店は評判になり、高い評価をいただいたそうです

偉い人たちをお見送りして、酔いを覚ましながら歩いて家路につきました

実は彼女の名前は覚えていませんでした

彼女が卒業して10年ほど経っていますし、私も大学を辞めていました

技術ではなくて、もの造りの心を教えておいて
よかったなあ

と寒い夜道を嬉しそうに、歩いて帰って行きました

まあ、棟梁たちの受け売りですけどね

noris

焼き菓子と写真はMaurice


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