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ミラベルジャムの思い出 Le souvenir de la confiture de mirabelles

Bonjour! 東京から陸サーファー的にフランスを語るわたくし、新行内です。

先日、ピカールのクロワッサンと良母ジャム(下の記事参照)について書いていた時、ふと20年前のジャムにまつわる思い出がよみがえってきたので、今回はそれについて書こうと思う。

フランス留学中に私が住んでいた女子学生寮では、朝食と夕食が出た。

朝食の時間には、温めた牛乳と冷たい牛乳、ホットコーヒーと紅茶用のお湯が入ったポットが食堂の窓辺に設置され、各テーブルには焼き立てのバゲットの輪切りが入ったかご、その隣にジャムが1種類とバターの乗った皿が置かれていて、寮生たちは各自でパンに何かを塗って食べていた。パンだけだと飽きるからと、自分で買ったシリアルに牛乳をかけて食べている人もいた。

私はといえば、もともとパンが大好きだし、寮で出される焼き立てのバゲットは、今でも思い出せるほどとても美味しかったので、毎日備え付けのバターとジャムをつけて食べていた。

朝食は自分の登校に合わせて好きな時間に食べるのだけど、ほとんど毎日同じテーブルになる学生がいた。マリーという子だった。

彼女はいつも食堂に自前のジャム瓶を持って来てそれをパンに塗っていた。
違う大学に通う私たちは、毎朝挨拶くらいしかせずに黙々とパンをほおばっていた。

週末や少し長めの休みになると、寮はがらんとしてしまう。近郊の学生は実家に帰省するのだ。私たち留学生は帰る家もないのでその期間を利用して旅行をしたり、誰か友人の家のバカンス旅行に便乗させてもらったりしていた。

休み明けのある朝、いつものようにカフェオレを作り、パンを食べようとしていたら、マリーが「ねえ!ちょっと待って!」と言って隣に座った。

そして「はい、これ。」と言って、私にジャムの入った瓶を渡した。

「ママンが作ったの。ミラベルのジャムだよ。食べてみて。」

私はあまり話したこともないマリーからの突然のプレゼントに驚いたが、「ありがとう!」とすぐに瓶の蓋を開けてスプーンでそのとろりとした金色のジャムをすくってパンにたっぷりと塗り付けた。

ミラベルはフランスでも夏の終わりから秋口にしか出回らない果物。その季節になるとマリーのママンはたくさんジャムにして保存しておくという。そんな貴重なジャムを私にくれたのだ。

「ノリコは毎日同じジャムを食べてるでしょ?ママンに話したらそのお友達にも1瓶持っていきなさいって。」

私はありがとうのビズ(キス)をすると、そのジャムをたっぷり塗ったパンをひとくち齧り、あまりのおいしさに悶絶した。マリーはそれを見てとてもうれしそうだった。

それがきっかけで、マリーとは朝食の席でおしゃべりをするようになった。彼女の寮の部屋に招待されて遊びに行ったりもした。部屋に入って驚いたのは壁一面に馬の写真やポスターが飾られていたことだった。マリーは小さな頃から馬が大好きで、自分の馬も持っているという。

私がその話に驚くと、彼女は言った。「いつか私の馬に乗りにおいで」

結局その約束は果たせずに私は帰国してしまった。

マリーは今頃どうしているだろうか。ママンになって子供たちのためにジャムを煮ているかもしれない。週末には乗馬を楽しんでいることだろう。

それではÀ bientôt!

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