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B線TNS日記23 悪夢・修学旅行の朝

某月某日 TNSにて

ぜえぜえ…。また、見てしまった…あの夢を。

トゥルルル…トゥルルル…トゥルルル…

けたたましく鳴り響く電話の音で目を覚ます。と、同時に母が私の部屋に入ってきて、「のりこ、遅刻だよ!修学旅行だよ、あんた!!今先生から電話で£&#%$<&☆…!!!」と叫ぶ。

時計を見るとすでに最寄り駅への集合時間を過ぎている。

私は文字通りに飛び起き、「なんで起こしてくれなかったの?うわぁああどうぢよう!!」と叫ぶ。叫ぶと肺に空気が急に入り込みせき込んでしまう。

確か、昨日の夜目覚ましをかなり早めの時間にセットしてから眠った。少し前に一度、その目覚ましを止めて、「まだ早すぎるからもう少しだけ寝よう」と思って眠りについたのだった。自業自得に親のいい加減さが加わるとこういう惨事が起きてしまう。

私は寝起きでよろよろのていで、制服に着替え、時々「なんで起こしてくんなかったの!」という呪いの叫び声をあげながら持ち物を階下に降ろし靴下を履く。手がわなわなと震え、うまく靴下に足を通せない。

そして大変なことに気づく。お弁当持ちだったよな、今日。

もちろんさきほど電話で起きた母は弁当の用意などしていない。「もう終わった、無理だ。修学旅行行けない…」

弱気になったところに父が登場(この方も電話で起きた)。

「のりこ大丈夫だ。焦るな。電車の出発時間までまだ20分もある。お母さんは今、コンビニに弁当を買いに飛び出したぞ。母さんが戻るまでに支度を済ませなさい。もし電車に間に合わなければ俺が東京駅まで車で連れていく。東北への電車の乗り継ぎ時間に間に合えばみんなに合流できるだろう。」

いつもだと、なんで起きなかったんだと頭ごなしに叱る父が、こちらのあまりに憔悴した姿に、冷静かつやさしさのこもった言葉をくれた。

洗面を済ませ靴を履いていると、門の方からクラクションが鳴り響く。母が弁当を買って帰ってきたのだ。私は「いってきます!」と言うと玄関を飛び出した。

駅に着くと、マンモス中学校の生徒たちが駅前のロータリーで校長先生の見送りの言葉を「休め」の姿勢で聴いていた。

私は母の車から降りると、その仲間たちの群れに飛び込んでいった。

みんなが私の寝ぐせだらけの頭を見て笑っている。一緒の行動班の友人が手招きして列に入れてくれる。ものすごく怖いことで有名だった担任はこちらをにらみつけている。

ここであることに気が付く。私は着替えのジャージを旅行鞄の中に入れただろうか?昨晩翌朝にもう一度荷物の点検をするからいいやと、バッグにものを適当に詰めた後に寝てしまったのだった。

先生の話を聴きながらバッグを探ると、ジャージは入っていないことがわかる。私は、整列した群れの中から飛び出し、駅構内にあるピンク色の公衆電話に走る。家に電話して駅に届けてもらわなくては!

10円を入れ、自宅の番号のダイヤルを回す。途中まではうまくできるが最後の一桁、0を回そうとして、隣の9を回してしまう。ああ!もう一度受話器を置き、やり直す。また失敗。こうしているうちに中学生の一団は改札に向かって歩き出す…。

私は軽い動悸を覚えながら起きる。「ああ夢だった。よかった。本当によかった…」

この悪夢の大半は実際に私が中3の修学旅行の朝に経験したことである。幸運にも忘れ物はしていなかったので後半の電話のくだりは完全な夢なのだが、当時、忘れ物をしたのではないかという不安は2泊3日の旅行中ずっと付きまとっていた。

それからというもの、旅行の準備は2日前には終わらせ、目覚ましは何段階にも設定して仕掛けるようになった。

トラウマからの学習。このおかげで遅刻や忘れ物はほぼしなくなったけど、この悪夢はその副産物として疲れているときや、行事前などに襲ってくる。今では夢の中で、これは夢だと気づきながらも見てしまう。

今度はいつくるのか、悪夢よ。

今日のDKB(男子高校生弁当)

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焼売弁当

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