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マエカワはなぜ「跳ぶ」のか (前川 正雄)

(注:本稿は、2012年初投稿したものの再録です)

 以前参加していたフォーラムの事務局から頂いた本です。フォーラムのコーディネータであった野中郁次郎氏が監修されています。

 舞台は、ハイテク企業「マエカワ(前川製作所)」、著者は同社顧問の前川正雄氏です。

 「独法」と名づけた少人数の自己完結ビジネスユニットの複合体経営で発展したマエカワですが、最近のプロジェクトの大型化に対応し、業界ごとの「一社化」に組織を変えました。とはいえ、幹となるユニークな経営スタイルは不変です。

 マエカワでは米国流の分析的・論理的な企業経営に与しません。分析よりも、今いる「場」を俯瞰的に感得し、その中で不連続な変化を志向するのです。この「不連続性」の実践を、著者は「跳ぶ」と表しているようです。

 そういった姿勢は、個々の構成員たる社員に浸透させなくてはなりません。

(p61より引用) 自分が感じていることを他人にも感じてもらうには論理の助けを借りては駄目だ。論理化して伝えようとすると、本人が感じていることの数分の一しか伝わらないからである。

 感覚知は論理的な伝達には馴染みません。生身の人間同士の経験の共有、同じ「場」での共存が不可欠なのです。

(p63より引用) 真の見える化、真の情報交換は、「場所性」があってはじめて成立するということだ。・・・場所性がないところでは、見える化も情報交換も表面的なものになってしまい、本質論に深まらない。

 このあたりの主張は、「分業制度の弊害」という章でも触れられています。

(p154より引用) 場所の情報は、製造の人間には製造からみた一面しかわかりようがない。・・・場所の情報の実体をつかもうとするなら、製造、販売、技術、業務といったすべてのメンバーが一緒に情報に触れ、その感覚知をお互いに交換しながらつかむしかない。企業にとって重要な情報は、一人だけではつかめないということだ。それぞれの専門性からとらえた感覚知を綜合してはじめて、なるほど実体はこうだったのかと、わかるのである。

 経験の共有を重視するスタイルは、マエカワの人材育成方法にも表れています。
 いくつかの企業では、新人社員の育成を先輩社員にサポートさせるチューター制をとっていますが、マエカワの先輩社員は、中途半端な若手・中堅社員ではありません。

(p116より引用) 人材育成で肝心なのは、20代で大きな冒険をさせることである。20代で冒険できた人は30代で跳ぶことを体験できる。・・・
 若手を跳ばせるには、50代、60代の先輩が一人ついて、二、三人のチームを組ませるのがいい。共同作業をさせながら、ギリギリまで自分たちで物事を判断させ、最後のところで手を貸して成功体験を積ませるのである。失敗もあるが、これは人材育成のコストと考えるべきである。

 形式的な「定年」は定めているものの、希望すれば70~80歳でも働き続けられるマエカワならではの「匠」の育成方法ですね。



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