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二重らせん (ジェームス.D・ワトソン)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 先日読んだ「知の逆転」のインタビューにも登場したジェームス.D・ワトソン博士の有名な著作です。

 DNAモデルの発見経緯についてはいろいろなエピソードが世の中的にも語られていますが、本書はまさに当事者の筆によるドキュメンタリーです。
 歴史的発見を競う科学者間の赤裸々な絡みやワトソン博士自身の心理的な葛藤等がリアルに記されていて、なかなか興味深いものがあります。

 たとえば、競争者であるアメリカの物理化学者ポーリングがDNAの構造をつかんだという手紙を目にしたときのフランシス・クリック(DNAモデルの共同発見者)の心情を描写したくだり。

(p154より引用) フランシスはひとり言をつぶやきながら部屋のなかを行ったり来たりしはじめた。自分の知能を一心に注ぎこめば、ポーリングがやったことくらい自分にだってやってやれないはずはない、といわぬばかりであった。ポーリングがまだ研究の成果を世に公表しないうちに、もしこっちが同時に発表すれば、われわれも彼と対等の名声を得られるわけだ。

 結果的には、このライナス・ポーリングの発見は間違っていたのですが、ワトソン、クリック両名には大きなプレッシャーとして圧しかかったのでした。

 さて、DNA構造発見までの物語に欠くことのできない人物として話題に上るのが、イギリスの物理化学者・結晶学者のロージィことロザリンド・フランクリンです。
 ロージィはDNAの研究をめぐり同僚(上司)のモーリス・ウィルキンスとしばしば衝突していました。

 このウィルキンスが彼女の撮影したDNAの写真を無断でワトソンに見せたことが二重らせん構造解明の大きな手がかりとなったのですが、その直前、ワトソンはロージィにポーリングの発見の問題点について議論していました。その激論の一部です。

(p165より引用) 私は彼女にはX線写真を解釈する能力がないとほのめかした。ほんの少し理論を勉強すれば、彼女がそれゆえにらせん構造ではないと考えている特徴が、実は、規則的ならせんを結晶格子に並べるのに必要なわずかなひずみから生じたものだということが理解できるだろうといった。

 ワトソンが二重らせん構造を解明した後は、それぞれ相手の立場を理解しあって関係は修復されたのですが、このころは、かなり感情的なぶつかりもあったようですね。

 最後に、本書を読み通しての印象です。

 確かに当事者でしか語り得ないリアリティのある内容だったのですが、少々プライベートな無駄話が多すぎるような気がしました。
 私としては、もっと、研究の過程のエピソードにフォーカスした重厚な叙述を期待していたので、少々物足りない残念な気分です。



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