ホンモノの偽物 (リディア・パイン)
(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)
いつも利用している図書館の「新着本」のリストで目に付いた本です。
ホンモノの偽物」という気になるタイトルは、私の注意を惹くには十分でした。
“偽物” をテーマにした著作ですが、対象にしている範囲はいわゆる “贋作” に止まらずかなり広く取り上げているので、その対象ごとに興味深い切り口がいくつも提示されています。
最初に取り上げているのは、「ウォーホルなしでつくられたウォーホル作品は本物か?」という問いかけ。
当初から分業制で制作されている版画作品の場合、原版の作者の死後であっても「ホンモノの原版」から刷り上げられたものは「ホンモノ」と言えるのではないかとの指摘はある程度の納得感があります。
また、「天然ダイヤモンドと人工ダイヤモンド」に関していえば、生成過程は異なるといえども生成物の「化学的組成」は全く同一であれば、両者とも “モノ” としては真正な “ダイヤモンド” でしょう。
むしろ論点のひとつは、生成過程が “天然”、すなわち人の作為を伴わず自然の偶然の条件下において(奇跡的に)生成されたという「プロセス」に “価値” を置くか否かという点だと思います。「ホンモノの人工ダイヤモンドを “天然ダイヤモンド” と偽ると、それは『偽物』」ということです。
本書の最後に著者は、こう結んでいます。
悪意をもった「捏造」は明確な概念ですが、「ホンモノ」というのは人により抱くイメージ(定義)にかなりの差があるように思います。その間隙に「ホンモノの偽物」が現出するのでしょう。
こういった著作を読むと、改めて “多様な視点” を意識し、そこから “新たな気づき” を得ることができます。
欲を言えば、もう少し写真や図版があればより分かりやすかったと思いますが、私にとっては普段あまり意識することのないテーマを取り上げてくれた興味をそそる内容の本でした。
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