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若者のための政治マニュアル (山口 二郎)

 読売新聞の「本の欄」で紹介されていたので読んでみました。

 著者の山口二郎氏は北海道大学教授・政治学者(注:現在は法政大学法学部教授)です。
 50年ほど前のことですが、私は、著者の山口氏と小学校のとき同じクラスになったことがあります。年は山口氏の方が一つ年長なのですが、私が通っていた小学校には、3・4年がひとつの学級を構成する「複式学級」が置かれていて、そこで一緒だったと言うわけです。そういう縁もあり、以前から山口氏の著作には関心を抱いていました。

 本書は、政治初心者を対象にしたもので、実践的に政治に関わる際の入門書といった感じです。まさに同時代の政治トピックをとりあげて解説を進めているので、リアルな臨場感がありわかりやすい内容となっています。

 著者は、本書で政治に向き合うための10のルールを示しています。それらの解説の中で、私が関心を持ったフレーズを以下にご紹介します。

 まずは、リスク分担を目指した「助け合い社会」について。

(p68より引用) 強い者の唱える改革に付いていっても、弱い者は助けてもらえないのである。
 高齢者の介護、子育て、教育、医療など、普通の人々が、自らの抱える弱さを理解し、リスクを社会全体で分担する仕組みを作り直すために、協力することが必要である。

 もうひとつ、「新自由主義」の位置づけ・意味づけについて。
 著者は、行き過ぎた「市場経済至上主義」を否定します。

(p81より引用) グローバルなプレーヤーではない、普通の人々の努力が報われるためには、それなりのルールと舞台設定が必要である。農業や流通業に対する保護、労働者の権利規定、働く母親に対する政策的なサポートなどは、すべてそのような舞台設定である。こうした舞台設定やルールを取り払って、すべての人間を無理やり一つのものさしで競争させようというのが、いわゆる新自由主義である。

 この「新自由主義」的政策による富の再配分は、日本においては、構造改革という名で推し進められたといいます。

(p170より引用) 強者への再配分が改革と賞賛され、弱者への再配分がバラマキと貶められることで、富のヒエラルヒーの差異が隠されているのである。

 金融工学を駆使した金融資本主義の失態、市場経済至上主義にもとづく行き過ぎた競争社会の歪みが顕在化している今日、著者の主張は、時宜を得たものとなっています。
 もちろん政治上の主張は、多様な立場からの想いのぶつかり合いですから、その正否は一義的に決まるものではありません。

 ただ、少なくとも、あとがきに表れている著者の想いは真っ当だと思います。

(p221より引用) 希望のない人間をこれだけたくさん生み出したことに対して反省することから、政治に関するあらゆる議論は始まるべきである。追い込まれた人に助けの手を差し伸べることができなかったことに対する慙愧の念こそ、これからの社会のあり方を考える原動力になるべきである。
・・・一握りの強者のみが富み、多くの人間の尊厳が無視されるような時代、貪欲と利益追求が賛美される経済から、歴史的な転換を図る機は熟している。

 そして、転換を進める際に求められる姿勢について、著者はこう指摘しています。

(p198より引用) 本当に世の中を変えるためには、現実を冷静に見渡し、策を周到に練らなければならない。そのためには、一時の熱狂に踊らされない慎重さと、有益な政策を見極める熟慮が必要である。懐疑的な進歩主義、楽観的な保守主義こそ今の日本に必要な精神である。

 偶然なのですが、本書にも登場している市場経済肯定論者宮内義彦氏「経営論」という本も同時並行的に読んでいるので、その考え方の対比には非常に興味深いものがありました。



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