反貧困―「すべり台社会」からの脱出 (湯浅 誠)
ここ数年、社会的格差拡大が言われて久しく、そういった世相を反映して「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」といった新語も登場しています。
更に昨年来(注:2009年時点)の不況の影響で、内定取消や非正規労働者の解雇・雇い止め等雇用情勢の悪化も著しく、さらに問題を拡大・深化させています。
こういった状況は、「貧困」の深刻化をもたらします。
著者は、この「貧困」という大きな社会問題に対してNPO法人の代表(当時)という立場で幅広い支援活動を行っています。
その著者が、貧困問題を議論する際の基本認識として問題視しているのが「安易な自己責任論」という考え方です。
著者は、そもそも「自己責任論」が拠って立つ「前提」を否定します。
しかし、現実社会においては、自分の責任に帰すべからざる理由によりその前提条件が欠如した状態が現存し、それが貧困の一因となっているのです。まず、この状態を多くの人々が認知することが、自己責任論の濫用を防ぐ力になると著者は主張しています。
社会には、最低限の生存権を保障するために、「雇用」「社会保険」「公的扶助」という三層のセーフティネットがあります。しかしながら、今の社会はこれらのネットに大きな綻びができ、機能不全に陥りつつあるのです。
著者は、3つのネットを滑り抜けて貧困状態に落ち至った当事者と同じ視点に立ったとき、初めて見えてくるものがあるといいます。
セーフティネットの修繕等の貧困を解消するための取り組みは、第一義的には政治の仕事です。が、著者はさらにこう指摘します。
現在、著者が主宰するNPO法人のほかにもいくつもの社会団体が様々な切り口で「貧困」の問題に取り組んでいます。
そういった活動の中で、実効的な改善効果をもつものとして「法律家への期待」が挙げられています。
貧困の問題は、まさに憲法25条が保障している「生存権」の具現化に係る問題なのです。
生活保護法の第1条には、「日本国憲法第25条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長すること」(第1条)と謳われています。
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