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すきやばし次郎 鮨を語る (宇佐美 伸)

 江戸前鮨の超有名店「すきやばし次郎」小野二郎さんへのインタビューを元に、小野さんの半生を紹介した本。
 80歳を越えてなお現役職人であり続ける小野さんの生き様や鮨への想いは、読んでいてとても興味深いものでした。

 全編を通して感じるのは、小野さんのいかにも自然体然とした姿勢です。

(p17より引用) 「・・・私の握りが誰にとってもおいしいなんていうことは有り得ないし、間違ってもそんな思いを抱くなら、鮨職人として傲慢以外のなにものでもない。
 うちのやり方とわかっていただける人がそこにいらっしゃるなら、その皆さんのために一生懸命握りたい。
 それでいいと言うか、それがいいんじゃないかと思っています」

 「すきやばし次郎」をひろく一般の人々にも知らしめたミシュラン三ツ星獲得についてもこういった感じです。

(p34より引用) 三つ星そのものの感想ですか?
 これはもう何べんも聞かれたけれど、ひとことで言えばナシ。本当に特別な感想は何もないんです。・・・
 要するに私らのような客商売って、ある意味自己満足の世界なんです。その基準をどこに置くかは人それぞれでしょうが、私にとっちゃあ、どれだけ与えられた仕事を手抜きをせずにきちんと全うできるか、これに尽きると思っている。

 「自己満足」というのは、ひとによりものすごく幅のある心の在り様ですね。
 易きに流れれば際限はありません。しかしながら、逆に高みを目指すと、こちらもまたいくらでもバーは高くなります。「手を抜いたかどうか」は、おそらく自分自身にしか分らないのでしょう。
 この自己満足は、最も自分に厳しいゴールだと思います。

 さて、小野さんは、こういった仕事への厳しい求道の姿勢を示しつつも、反面、柔軟な考え方も併せ持っています。

 たとえば、「回転寿司」について。小野さんはこう語ります。

(p186より引用) トマトを握ろうがハムを握ろうがトンカツを乗せようが、酢飯の代わりにパンを使おうが、一向に構わないじゃないですか。
 それで商売が成り立っているのなら、「あんなのおかしいよ」って言うほうがよっぽどおかしい。元々は江戸の屋台で始まった小腹ふさぎ、いわばスナックみたいなもんです、お鮨は。
 流儀もへったくれもない。少なくとも、何をどうしようが外野がつべこべ言うことじゃないんです。

そして、そう話しつつも小野さんは淡々と我が道を行くのです。

(p186より引用) じゃあ何でお前んとこはトマトやハムを握らないんだ?っておっしゃるかも知れませんが、それは私が握りたくないから。こっちが握っておいしいと思えないからださない、それだけです。

 「すきやばし次郎」。会社(注:2010年当時)から歩いて5分ほど、一度行ってみたい気持ちはありますが、やめておきましょう。
 もちろん、予算は「お任せで31,500円が基本」というのも大きなハードルですが、やはり、私のような味の判らない “ど素人” がお邪魔するのは百年早い気がするのです。



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