著者の梶原しげるさんは文化放送のアナウンサーからフリーランスになった「しゃべりのプロ」です。最近は日本語検定審議委員もされているとのこと。
本書は、そんな梶原さんが「日経ビジネスアソシエオンライン」に連載していたコラムをもとに加筆修正してまとめたものです。
採り上げられている話題は様々ですが、特に私の興味を惹いたところをいくつかご紹介します。
まずは、「毒舌」で有名な毒蝮三太夫さん。
素人さんへの生のインタビューでもその毒舌は健在です。とはいえ毒蝮さんの毒舌には、最後には相手の気持ちを軽くする名人芸的な「救い」があるといいます。
ベテランアナウンサー徳光和夫さんにまつわる話も興味深いものがあります。
徳光さんといえば生放送に強いという印象がありますが、その強さは、本番前に築かれた堅実な基礎の上にたっていました。
さて、著者の梶原さんは心理学修士でもあります。本書でも、「しゃべり」の話題を精神面のやすらぎに関連付けたくだりが随所に登場します。
たとえば、「だから」という語句が生み出す「単純思考」について。
「怒られた、だから私はダメ人間だ」。
ちょっとしたことで気に病む、気落ちする、そういう場合は往々にしてこの「AだからB」という短絡思考の陥穽に陥っているおそれがあるというのです。
また、相手への気遣いにつながる「ひらがな」の効用について。
したり顔の漢語・カタカナ語が飛び交う中、「ひらがな」で表そうとすること自体が、聞き手への思いやりの現われだということです。
さて、本書からの覚えの最後として、目の不自由なシンガーソングライター立道聡子さんからの学びの箇所をご紹介しておきます。
なるほど、ここでも「相手のために」ではなく「相手の立場で」考えるということですね。改めて肝に銘じたいと思います。