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即答するバカ (梶原 しげる)

佐々田 法男

 著者の梶原しげるさんは文化放送のアナウンサーからフリーランスになった「しゃべりのプロ」です。最近は日本語検定審議委員もされているとのこと。

 本書は、そんな梶原さんが「日経ビジネスアソシエオンライン」に連載していたコラムをもとに加筆修正してまとめたものです。
 採り上げられている話題は様々ですが、特に私の興味を惹いたところをいくつかご紹介します。

 まずは、「毒舌」で有名な毒蝮三太夫さん
 素人さんへの生のインタビューでもその毒舌は健在です。とはいえ毒蝮さんの毒舌には、最後には相手の気持ちを軽くする名人芸的な「救い」があるといいます。

(p44より引用) どんな時にも、想定外の答えは返ってくるものだと覚悟しておくこと。相手にとって、ネガティブな話題が飛び出したとき、急に同情しないこと。同情とは、高みから見下ろす上から目線の感情表現だ。蝮さんは辛さ、悲しさに、同情はしない。しっかり共感しているのだ。

 ベテランアナウンサー徳光和夫さんにまつわる話も興味深いものがあります。
 徳光さんといえば生放送に強いという印象がありますが、その強さは、本番前に築かれた堅実な基礎の上にたっていました。

(p52より引用) 製作者の思いやこだわりを誰よりも大切にする。ということは、誰よりも深く台本を読み込むタイプなのだ。読んで読んで読み込んで、行間から浮かび上がってくる「自分の役割」をしっかり把握したうえで、予定調和を破壊してエネルギーに昇華させる。その極意を「行き当たりばったり」と表現しているのだろう。・・・
 徳光さんのメッセージは、「求められる役割をしっかり把握したうえで、さらにその上を行くパフォーマンスを心掛けよ」と、若きビジネスパーソンに訴えかけているのだ。

 さて、著者の梶原さんは心理学修士でもあります。本書でも、「しゃべり」の話題を精神面のやすらぎに関連付けたくだりが随所に登場します。

 たとえば、「だから」という語句が生み出す「単純思考」について。

(p178より引用) AだからBという単純思考が心をむしばむことがある。そんな時には、発生した出来事に安易に「だから」という言葉をつなげないことが心の健康を保つうえで有効だ。

 「怒られた、だから私はダメ人間だ」。
 ちょっとしたことで気に病む、気落ちする、そういう場合は往々にしてこの「AだからB」という短絡思考の陥穽に陥っているおそれがあるというのです。

(p178より引用) 「Aだからといって、Bと決まったわけじゃない」と受け止められる。考え方にフレキシビリティーのある人が、精神的にタフな人だ。

 また、相手への気遣いにつながる「ひらがな」の効用について。

(p196より引用) 漢語やカタカナは、ちょっと能力のある人は使えるようになる。そこからさらに人に伝わるようにできるかは、気づかいを足すことができるかどうか。その人が、自分の言い分だけを言おうとしているのではなく、相手にわかってもらおうとしているかどうか。
 その按配が、ひらがなにあらわれるのかもしれない。

 したり顔の漢語・カタカナ語が飛び交う中、「ひらがな」で表そうとすること自体が、聞き手への思いやりの現われだということです。

 さて、本書からの覚えの最後として、目の不自由なシンガーソングライター立道聡子さんからの学びの箇所をご紹介しておきます。

(p104より引用) 「もし立道さんが、街中や駅の階段で戸惑っているような場合、僕らはどんなふうにしたらいいんですか?」
「一番困るのは、目の前に立ちはだかり『大丈夫ですか』という人・・・。『大丈夫じゃないです』とは、なかなか言えないんですよね。どうしても『ああ、はい大丈夫です。ご心配なく』と答えるしかないって気持ちになっちゃうんです。できれば『何かお手伝いできることはありますか?』と、英語の『May I help you?』みたいな言葉をかけていただければありがたいですね。・・・」

 なるほど、ここでも「相手のために」ではなく「相手の立場で」考えるということですね。改めて肝に銘じたいと思います。



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