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枕草子 (角川書店 編)

 先に読んだ永井路子氏の「歴史をさわがせた女たち」の中に清少納言が登場していたので、今さらながらですが読んでみました。

 とはいえ、原文(古語)で読むに必要な知識ははるか昔に忘れ去ってしまっていますから、今回手にしたのは初心者向けの入門書。全編約300段の中から80あまりの段を取り上げて、現代訳に加え、わかり易い解説や図版を収録した本です。

 解説によると、枕草子の内容は、類聚的章段・日記的章段・随想的章段の3つに区分され、さらに類聚的章段は形式上「山は」「鳥は」などの「~は型」と、「めでたきもの」「うつくしきもの」などの「~もの型」に分けられるそうです。
 「~は型」は、代表的・象徴的な対象を次々に切り出してみせてくれます。「~もの型」は、おなじく連想的に同種類のものを列挙していきますが、最後にちょっと趣向が異なるものを挙げて面白さを倍加しています。

 たとえば、

(p169より引用) 恐ろしげなるもの 橡のかさ。焼けたるところ。水蕗。菱。髪多かる男の、洗ひて干すほど。(第142段)

 最後の「髪の多い男が、洗って乾かすところ」というのはかなり意表をついていますね。

 その他に「~もの型」で、私が面白いと思ったものをご紹介します。
 まずは、「すさまじきもの」
 「すさまじ」とは、期待が裏切られしらけた気持ちといいます。

(p40より引用) すさまじきもの・・・
 人の国よりおこせたる文の、物なき。・・・(第22段)

 「地方からの手紙に何も贈り物がついていないもの」は期待はずれだというのですが、まあ、なんとも正直な気持ちの表出・・・? ですね。

 次は、「過ぎ去った昔が恋しく思い出されるもの」の段です。

(p52より引用) 過ぎにし方恋しきもの 枯れたる葵。雛遊びの調度。二藍、葡萄染など裂栲の、押し圧されて、草子の中などにありける、見つけたる。また、折からあはれなりし人の文、雨など降りつれづれなる日、探し出でたる。去年のかはほり。(第27段)

 このあたりの清少納言の感性には、確かにさすがといった冴えが感じられます。一つひとつの例示は、素直に納得できますね。

 「めったにないもの」

(p92より引用) ありがたきもの 舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。毛のよく抜くる銀の毛抜き。主そしらぬ従者。・・・
 男・女をば言はじ、女どちも、契り深くて語らふ人の、末まで仲よきこと、難し。(第72段)

 これは、1000年の時の隔たりがあっても、今もまた同じという典型です。また、人間関係の難しさも変わりません。

 最後のご紹介は、清少納言の心のうちの思いが垣間見られる段です。

(p36より引用) 宮仕へする人をば、あはあはしう、わろきことに言い思ひたる男などこそ、いと憎けれ。・・・(第21段)
(p212より引用) 世の中に、なほいと心憂きものは、人に憎まれむことこそあるべけれ。・・・
 親にも、君にも、すべてうち語らふ人にも、人に思はれむばかり、めでたきことはあらじ。(第252段)

 日々の事々を彼女一流の観点でザクッと切り取って表現する清少納言ですが、拠って立つ視座は「宮中の女御」という立ち位置に固定化されています。
 そのあたり、私如きがいうのも口幅ったいのですが、ちょっと物足りなさを感じてしまいます。「庶民の感覚はちょっと違うんだよなぁ~」という感じです。
 とはいえ、もしも当時ブログがあれば、やはり清少納言はアルファ・ブロガーだったでしょうね。


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