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社会起業家―社会責任ビジネスの新しい潮流 (斎藤 槙)

 出版は2004年7月ですから、かなり前の本です。

 本書では、ビジネス(企業)の社会化、NPOのビジネス化及び両者のパートナーシップといった社会責任ビジネスの動向を概説するとともに、米国及び日本の社会起業家の活動を具体的に紹介しています。

 私も、CSR(企業の社会責任)のコンセプトについてはある程度の知識をもっていましたが、「社会起業家」という言葉はこの本を読むまで知りませんでした。
 「社会起業家」は、社会性を有する課題に対して、その解決に使命感をもって活動する人たちです。

(p29より引用) 社会起業家の作る組織は、営利企業でもNPOでもよい。環境保護、人権擁護、経済開発など、ローカルおよびグローバル社会にもたらす長期的な恩恵を最優先にして、事業を確実に進めていく力。それが社会起業家に必要な条件となる。

 社会起業家は、「良識ある消費者」を育てるとともに、「良識ある消費者」に支えられています。
 「良識ある消費者」は多くの場合、従来とは異なる価値観をもち、それが彼らの新たなライフスタイルに反映されています。

(p37より引用) 「ライフスタイル創造者」とは、エコロジーや地球を救う運動に強い関心をもっていて、人間関係、平和、社会正義、自己実現、精神性、自己表現、といったことを大事にする人。

 彼らは、企業の社会性を基準にして自らの購買行動を決定します。こういった社会的課題に敏感に反応する消費者が増えていくにつれ、企業サイドにおいても、企業が負うべき「社会責任」を「マーケティング戦略」として位置づけて対応しようとする動きが出てきます。

(p83より引用) 市場で戦っていくうえで社会性が欠かせない要素だということを意識するようになった企業は、社会貢献を今までよりも中心的な経営戦略のひとつと位置づけて行動するようになっている。言ってみれば、それまでは会社のなかでも“亜流”だった社会貢献という事業が、売り上げに直接的な影響を及ぼす事業の根幹の一部と見なされるようになったことを示している。
 マーケティング界には、「ソーシャル・マーケティング」というアプローチが定着しはじめている。社会的な価値の創造を根っこに据えて、企業の活動を決定し、消費者、従業員、投資家などのステークホルダー(利益関係者)にもそれを訴求していこうという考え方だ。

 最近のECOの潮流にのった各業界・企業の動きは、まさにこの指摘の具体的な現われだと言えますし、一部企業に見られるような「NPOと連携した事業展開」という方向性は非常に興味深いトレンドだと思います。

 著者は、「社会起業家」の将来について大きな期待を抱いています。

 経済の停滞により、将来に向けての個人資産形成はますます困難になっていきます。一時のバブル期のような短期でのリターンは望みにくい状況ですから、いきおい個人投資は、より確実な長期投資先を求めることとなります。

(p220より引用) では、長期投資をするとしたらどんな企業を選ぶか。そこで、「長期にわたって持続的に成長しそうな会社」という条件が浮かび上がってくる。それがすなわち、SRIの価値観に重なり、企業の社会性や倫理性に着目する投資は普及していく。

 この傾向が、「社会起業家」にとっては追い風になるという考えです。

 さて、最後に本書のあとがきで著者が紹介している「社会起業家から教わった 生き方、働き方の10の極意」を覚えに記しておきます。

(p243より引用) 
 1.自分の好きなこと、楽しいことに夢中になろう。
 2.いろいろな人と喜びや悩みを分かち合おう。
 3.効率を優先させない。何が大切かを見極める。
 4.かわいい子には旅をさせよ。かわいい子だけでなく、自分がかわいい大人も旅に出よう。きっと名案が浮かぶから。
 5.おかげさまで、の気持ちを忘れずにいよう。
 6.あきらめるから失敗する。成功するまで頑張ろう。
 7.人と競争するのではなく「協奏」しよう。
 8.人生に無駄はない。一見、マイナスなことでもそこから何かが見えてくる。
 9.人がどう思うかではなく、自分がどう思うかを大切にしよう。
 10.たまには自分を褒めよう。

 (注:SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資))



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