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三国志談義 (安野 光雅・半藤 一利)

 穏やかな画風で知られる画家の安野光雅氏と独特の切り口で歴史を論ずる半藤一利氏が、「三国志」について語り合うという内容に惹かれて読んでみました。

 後漢に続く魏・呉・蜀、三国志の時代は、魏の流れを汲む晋による統一で幕を閉じますが、陳寿の「三国志」や後の羅漢中による「三国志演義」で後世に伝わりました。

 半藤氏は、その時代を日本の幕末期と相対させます。

(p59より引用) 半藤 最近あらためて思うのは、三国志の時代は、日本の幕末とよく似ているということ。・・・というのは、一つは、この時代、後漢の古い権威が崩壊しましたが、だからといって何を盛り立てればいいのか、新しい権威が出てきていない。幕末も同様に、徳川幕府が崩壊しても天皇がまだ出てこなくて、次の権威がなかった。二つめに、漢代の社会規範や価値観がずべて崩壊して、必然的に道義の頽廃をきたしました。・・・これも幕末と同じです。最後に、社会の下積みの名もない連中がぐんぐんと歴史の舞台に乗り出してきた‐この三つの点からいうと、三国志はじつに幕末と似ています。もう一つ、一般大衆には大迷惑であった。

 そういう観点からみると、双方に、とても個性的で人間的な魅力に溢れる人物が大挙して登場するのも道理だと言えますね。

 本書では、三国志に登場する多くの英雄・豪傑たちをとりあげ、安野氏・半藤氏がそれぞれへの思いを語り合います。
 その中で、二人ともの評価が高かったのが、魏の創始者曹操です。

(p74より引用) 半藤 ・・・逆説の多い魯迅がまともにほめているということは、曹操はやっぱりすごかった。なにしろ曹操は自分で決めます。そして人物を見る目が素晴らしいのと同時に同時に、趙雲や関羽らに対して「あいつはいい、俺の家来にしたい」と言ったりするのは、本当に人間が好きなんだと思う。加えてリーダーシップがあるから、いい武将がたくさんつく。まあ、欠点と言えば、猜疑心がやや強いのと、権謀術数の人というか。

 三国志の時代には、軍師・謀将も大いに活躍しました。もちろんその代表格が、蜀の宰相として劉備を援けた名参謀諸葛孔明でしょう。魏の荀彧、呉の周瑜らがそれに続きます。

 参謀というところから、安野氏は旧日本軍の参謀と三国志の参謀とを対比させます。

(p107より引用) 安野 かつての日本軍は、勝てもしないのに勝てると思い込んだり、夢を描いて突進するところがなかったでしょうか。ノモンハンなんて、どう考えても勝てないのに勝てると思って突っ込んでいく。ああいうのは三国志の参謀にはいないですね。
半藤 いませんねえ。張飛のようにやたら突っ込もうとする連中がいても、参謀が合理的かつ具体的に一所懸命諌めますから。

 このように、本書での三国志に纏わるお二人の対話はとても興味深いものが多いのですが、正直なところちょっと残念な点がありました。致命傷といってもいいのかもしれませんが、私自身、まだ「三国志(正史)」も「三国志演義」も通読したことがないということです。

 そのために、話題になっている人物や場面が、私なりの印象として具体的にイメージできないのです。
 お二人の話題について行くには、いかにも素養不足ということでした。



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