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イヴの七人の娘たち (ブライアン・サイクス)

(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)

 現代人類共通の祖先を探究する遺伝子研究がテーマです。

 キーとなる手がかりは「ミトコンドリアDNA」
 ミトコンドリアは真核生物の細胞小器官で、独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を持ち、分裂・増殖します。当然、卵子の細胞質にも存在しますが、この卵子の中にあったミトコンドリアは受精後の細胞分裂においても引き継がれていきます。即ち、ミトコンドリアDNAは常に母性遺伝するのです。

 この性質を利用して、著者は、現代ヨーロッパ人の母系祖先を辿っていきました。

(p229より引用) チェダー渓谷の化石から、現代ヨーロッパ人と後期旧石器時代の狩人は遺伝的につながっているという物的証拠が引きだされた。これでわれわれのDNAには、歴史の黎明期を越え、鉄器時代、青銅器時代を越えて、氷、森林、そして凍原からなる古代の世界まで、とぎれることのない糸が正確に、そして忠実に記録されていることがはっきりした。・・・
 進化の歴史を再構築した結果、ヨーロッパ人のなかには七つのおもな遺伝学的群があることが明らかになった。

 今生きているほとんどすべてのヨーロッパ人は、7人のいずれかと遺伝的なつながりがあるというのです。

(p230より引用) 七つのクラスターの年代は、四万五千年前から一万年前のあいだに広がっている。・・・そして理論的には、七つのクラスターそれぞれの元となるひとつの配列は、すべてたったひとりの女性によってもたらされたということになるのだ。

 この探究の過程を綴った本書の前半部分は、なかなか興味深いものがありましたね。古代人の化石からDNAを抽出する場面などは映画にでもできると思いました。
 そして、この一連の研究から、世界60億人ひとり一人の母系祖先も突き止めらています。

(p326より引用) 遺伝学が、現代の人類の起源が過去15万年以内のアフリカにあることを明確に示している。約10万年前になると現生人類がアフリカから広がりはじめ、最終的には世界のほかの地域へと移住していった。

 彼女は「ミトコンドリア・イヴ」と名付けられました。

 さらに、本書の最後の方では、日本人についての分析の記述があります。

(p334より引用) 現代日本人の大半のミトコンドリアDNA配列が現代韓国人と共通していることから、彼らの母系祖先は弥生人以降の移民にたどることができる。・・・ミトコンドリアDNAから見て、現代日本人のなかには縄文人と弥生人が混在していることはたしかであり、ここでも、さまざまな人種をもとにした遺伝学的な分類など存在しないことが確認された。

 最終章「自分とは?」の中での著者のメッセージは、とても大事だと思います。

(p348より引用) われわれ人間は、だれもが完璧なる混血なのだ。と同時に、誰もがつながっている。

 それは、哲学的な理念ではなく、遺伝学的な事実なのです。そして、その事実は理念としても活かされなくてはなりません。



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