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思考の方法学 (栗田 治)

(注:本稿は、2024年に初投稿したものの再録です。)

 いつも利用している図書館の新着本リストで目についた本です。

 こういったタイトルに代表されるような「●●思考」をテーマにした本は、いままでもあれこれと読んでいます。
 今の私の立場では、もう目の前の仕事に活用するといったシーンはほとんど考えられなくなっているのですが、やはりちょっと気になります。

 実態を把握・整理し論理的アプローチにより事象や対策を評価・判断するには、一段階抽象化した「モデル」を設定することは有益です。
 本書は、その「モデル分析」の具体的作法を紹介したもので、それそれの章ごとに興味深い気づきはありましたが、それらの中から特に印象に残ったところを1、2覚えとして書き留めておきます。

 まずは著者の栗田治さんが本書で紹介している「モデル」の定義を端的に示しているくだり。

(p40より引用) モデルとは目前の現実を思考の枠組みに変換するための装置です。

 この「思考の枠組み」にはいくつかのパターンがあり、栗田さんはそれらを “対概念” として分類しています。
 「定量的モデル/定性的モデル」「普遍的法則を追求するモデル/個性的な個体を把握するモデル」「マクロモデル/ミクロモデル」「静的モデル/動的モデル」ですが、これらの概念を組み合わせることにより2次元や3次元のマトリックスを作り、様々なエンティティの位置づけを整理していくのです。

 こういった丁寧な「モデル分析の基本」の紹介に続いて、栗田さんは “モデル分析における重要な留意点” を示しています。

(p236より引用) 一言でいうと、「同じ現実を見ていても、見る人の立場・職位・知識・技術・思想・価値観…等々の相違によって、何を問題と思うかが異なる」ということです。何を問題と思うかが異なるのですから、人によって「問題の定義」は異なるのです。問題の定義が異なれば、提案される解決策も異なって当然です。

 この指摘はとても重要ですね。

 栗田さんは “価値観によって異なるものの見方” の例として、ある社会的課題に対する対応策を決定するにあたって、3つの立ち位置(価値観)を挙げています。

(p286より引用)
 価値観a 社会全体の利益を優先するのがよいことである「社会的最適性の重視」
 価値観b 社会の中の弱者(割りを食っている人)の利益を優先するのがよいことである「弱者救済の重視」
 価値観c 社会の構成員の利益をできるだけ平準化するのがよいことである「平等主義」

 「問題の所有者」が、この中のどの価値観に拠って立つかで、採用される対応策はまったく異なるものになります。

 はるか以前に私が参加した研修セミナーで、妹尾堅一郎(現)特定非営利活動法人産学連携推進機構理事長「刑務所新設プロジェクト」を例に “コンセプト” の重要性をお話しされていたところと同根のポイントですね。

 この “価値観の明確化” が疎かで利害関係者の間で同床異夢の状態だと、いかにしっかりしたモデル分析のプロセスを経たところで、最後の結論に至るフェーズでその検討は空中分解してしまうでしょう。



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