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猪瀬直樹の仕事力 (猪瀬 直樹)

 著者は現東京都副知事の猪瀬直樹氏(注:2011年、投稿当時)。
 先般、猪瀬氏の30年近く前の著作「昭和16年の敗戦」を読んだのですが、本書は新刊です。

 第一章は、最近の「時評-改革の現場から」、第二章は「誰も知らなかったコトを見てみたい」という企業ルポルタージュ、第三章は「対談-「日本」と「文明」をめぐって」。それぞれが独立した構成です。

 そのなかで、特に私の興味を惹いたのは第二章。
 株式会社ワンビシ・アーカイブズをレポートした「災害から情報を守るアイデア商社」で紹介されている創業者樋口捲三氏の発見力と行動力はずば抜けたものでした。

(p104より引用) 判断のためのデータは、意外なところで発見できる。その教訓を徹底していけば、どうしてもディテールに注意力が喚起されるというのである。・・・
 アイデアマンは意外に本を読まないものだ。・・・では勉強家でないのかというと、そうではない。人に会うことをいとわず情報の素材に敏感、耳学問を生きたデータにし、勘を養う。

 このあたりは、ホンダの創業者であるあの本田宗一郎氏に相通ずるところがありますね。

 また、第三章の「対談」の中にも興味深い指摘がありました。
 たとえば、作家小島信夫氏との対談「ノンフィクションと文学のあいだ」から「批評家の役割」についての猪瀬氏のコメントです。

(p165より引用) 猪瀬 自然主義とかプロレタリア文学とか私小説とかなんとかがあったように、ノンフィクションという時代があったと考えたほうがおもしろいと思うんです。・・・
 ところが、この時代に合わせた文学史家が出てこない。そういう全体の文学史を、もっと広く言えば文学史を、きちんと位置づける人が出てこないから、いつまでたっても位置づけができない。位置づけができないと、次のステージは生れないんです。

 もうひとつ、なるほどという指摘。フランス文学者山田登世子氏との対談「『有名人』はただの現在にすぎない」から、猪瀬氏による「アメリカ大統領選」の意味づけのくだりです。

(p190より引用) アメリカの大統領選というのは王位継承戦争だから、一年間やる。内乱ですから、あれは。一年間内乱をやることによって、全員が参加して、そこで感情を全部表出すると、要するにディオニソス的な空間ができて、飲めや歌えでドンチャン騒ぎになる。それでひと通り吐き出したところで、王様の交代という儀式が成り立っていく。・・・そういう祝祭空間をもって、南北戦争の小型版を四年に一回ずつやっていくという形で国家が再生していく。

 さて、本書を読み通しての感想ですが、その内容は、「猪瀬直樹の仕事力」というタイトルから私が勝手に想像していたものとはちょっと違いましたね。
 ただ、採録されている形式もコラム・ルポルタージュ・対談と、また、テーマも、時事問題・経営・文学論等と多種多様で、猪瀬氏の考え方を多角的な視点から辿るにはなかなか面白いものでした。



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