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ずる ― 嘘とごまかしの行動経済学 (ダン・アリエリー)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 ダン・アリエリー氏の本は、以前「予想どおりに不合理」を読んでいます。最近はやりの行動経済学の入門書としてはなかなか面白かったですね。

 本書は、不正と意思決定をテーマにした同じ流れのものです。

 まず、著者は、本書での立論における基本的仮説を設定します。

(p37より引用) わたしたちの行動は、二つの相反する動機づけによって駆り立てられている。わたしたちは一方では、自分を正直で立派な人物だと思いたい。鏡に映った自分の姿を見て、自分に満足したい(心理学者はこれを自我動機と呼ぶ)。だがその一方では、ごまかしから利益を得て、できるだけ得をしたい(これが標準的な金銭的動機だ)。

 この二つの動機は相容れないものですが、私たちのもつ「認知的柔軟性」という能力はこの両者のバランスをとり、「ほんのちょっとだけのごまかし」を行う自分を正当化するのです。

 次に、著者は、「どういう場合に人間は不正(ごまかし)をするのか」を数々の実験によって明らかにしていきます。
 「自分以外に見ている人がいないとき」「相応の金銭が与えられるとき」・・・、「疲れているとき」もそうです。

(p119より引用) 一般に、意志力がすり減ると、欲求を抑えるのにとても苦労するようになり、その苦労のせいで正直さまでがすり減ってしまうのだ。

 こういうほんのちょっとだけの不正(ごまかし)は、それ以降の行為にも悪影響を与えることが、著者の「(偽)ブランド品」を使った実験で明らかにされています。

(p154より引用) 初めての不正行為は、その後の自分自身や自分の行動に対する見方を形成するうえで、とくに大きな意味をもつことも忘れてはならない。

 著者は、この状態を「どうにでもなれ」効果と名付けています。

(p153より引用) 最初のたった一つのごまかしが、自分の全体的な不正直さの水準が高まったという自己シグナルを発し、・・・それをもとにつじつま合わせ係数を大きくして、さらなる詐欺行為を行なうかもしれないのだ。・・・だからこそ、最も阻止すべきは最初の不正行為なのだ

 さて、本書を読み通してみて、最も興味を引いた点をひとつ、最後に書き留めておきます。

 それは、著者が紹介している数々の「不正」促す要因の中に「創造性」を挙げている点です。

(p212より引用) 創造性は、厄介な問題を解決する斬新な方法を生み出す助けになるのと同じように、規則をかいくぐる独創的な方法を生み出し、情報を自分勝手な方法で解釈し直す助けにもなる。・・・わたしたちは創造性のおかげでもっと「よい」物語を―もっと不正なことをしても、自分をすばらしく正直な人物だと思い続けるのに役立つような物語を―紡ぎ出すことができるのだ。

 「創造性」は、美徳として、また社会の進歩を促進する重要な原動力として賞賛されるのが常ですが、この著者の指摘は意外であり、同時に的確でもあります。



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