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不機嫌な職場-なぜ社員同士で協力できないのか (河合 太介 他)

 帯には、「あなたの職場がギスギスしている本当の理由 社内の人間関係を改善する具体的な方法をグーグルなどの事例もあげて教えます」と書かれています。会社には、いろいろな職種・階層を問わず、何とかして活き活きとした職場にしたいと考え悩んでいる人は数知れずいますね。

 さて、河合太介さんをはじめとした著者たちは、この問題の原因分析と対策検討にあたって、「役割構造」「評判情報」「インセンティブ」の三つのフレームワークを用いて議論を進めていきます。

 その中の「役割構造」でのキーワードは「組織のタコツボ化」です。人に帰納させると「属人化」ということになります。

(p44より引用) グローバル化だけでなく、現在の団塊の世代の大量退職に伴うスキル伝承の問題などに直面し、企業組織として次の段階に移らなければならないいま、日本企業の過度の仕事の「属人化」がさまざまな面で大きな問題となっている。
 仕事が属人化してしまうため、経営トップから「見えない」、新たな経営の方針に基づいて仕事も変化すべきなのに「変わらない」、次の世代や世界の同僚に伝えるべき内容も「伝わらない」、これらの問題を引き起こしているのだ。

 二つ目の「評判情報」
 これは、「相手のことを知る」ことがスタートになります。そのための方法として誰でも思いつくのが「ソーシャルメディア」の社内活用です。

(p166より引用) 多くの会社が社内ブログやイントラネットを活用したが、上手くいっていないと聞く。なぜ、サイバーエージェントではそれが上手く機能しているのだろうか、と。
 堪えは単純明快である。それは、彼らの社内ブログやイントラネットが、圧倒的に面白いからである。外にあるブログやホームページと比べて、競争力のあるレベルで面白いから、人は、そこを訪れるのである。・・・
 本気でやる覚悟。外部競争力を持つくらいのクオリティーに対する工夫。これが必要なのである。

 この著者たちのコメントは、一面真実だと思いますが、世の中の多くの企業の実態を抑えていない結論でもありますね。
 企業内でこういった情報共有・連携ツールを浸透させるには「面白さ」だけでは無理です。そこには「ツールを使う必然性」が条件に加わってきます。いくら面白いブログでも、自分の業務に役立たなくては結局は使われないのです。
 それから、もうひとつ。「そもそもこの手の仕掛けに響かないメンバも厳然と存在する」という現実もあります。これは、良い悪いの問題ではなく、所与の環境条件です。
 私自身、以前、2・3の組織で1年以上にわたって社内SNSの試行をやってみましたが、やはりこれらの壁を乗り越えられず一定以上の利用拡大には至りませんでした。

 三つ目は「インセンティブ」
 この最後の点が最大のポイントです。

(p188より引用) 協力し合える組織に変えていく方法を、役割構造、評判情報、インセンティブの三つのフレームで見てきた。
 お互いがタコツボに入り込んでしまうような状況をつくらず、お互いをよく知る、お互いの意図や人となりを知ることができる状況をつくりだす。その上で、根源的な感情、すなわち感謝や認知を通じた協力感というインセンティブが働くようにする。一つひとつの取り組みが、こうした連鎖を生み出したとき、協力し合える組織へと変わっていくことができる。

 いかに仕組みができても、とどのつまりは「マインド」の問題が残るのです。この点が最も悩ましいところです。著者たちも十分に認識しています。みんな気になっている、現状には心を痛めている、でも「協力への第一歩」が踏み出せない・・・。

(p196より引用) 人は助けて欲しいと言われたときに、周囲に自分以外の人がいれば、つい傍観者になってしまうことが起きやすい

 これが「援助行動の傍観者効果」といわれるものです。
 この「傍観者」を生まないようにする方法が難しいのです。著者たちは、このためには、「感謝と認知のフィードバック」が重要だと説いています。が、このあたりになると俄然具体性に乏しい立論になってしまいます。

(p200より引用) 本書で繰り返し述べてきたように、協力の問題は単に個人の意識の問題ではなく、組織の問題であり、社会の問題である。

 本書の物足りなさは、まさにこの主張にあります。「マインド」の部分、すなわち「応用心理学」的観点からの分析やアプローチが弱いのです。

 読み通してみて、本書の示唆にはリアリティの希薄さを感じざるを得ませんでした。200ページ程度の新書ですが、内容は20~30ページもあれば伝え切れる感じです。
 残念ながら、現場の一人ひとりの「心」の実態に刺さり込んでいない表層的な処方箋だという印象が残りましたね。



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