疑う力 (西成 活裕)
(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)
著者の西成活裕氏は「渋滞学」の提唱者。
以前にも西成氏の著作は「クルマの渋滞 アリの行列」「とんでもなく役に立つ数学」を読んだことがあります。
今回のテーマは「疑うことの効用」です。
本書で、著者が紹介している「疑う」ことを科学する分析スキームは「IMV分析」と呼ばれるものです。
「I」は、「伝え手の真意(Intention=意図)」、「M」は、「伝え手から発せられたもの(Message=伝達情報)」、「V」は、「受け手の解釈(View=見解)」のことで、これらの組み合わせごとに議論を進めていきます。
ただ、この五通りのうち①は完全な理解、⑤は完全な誤解なので、「疑う」という事象が生じるのは②③④の三通りになります。第二章では、この「IMV分析」を用いての具体例の解説が並びます。
とはいえ、次の第三章以降では、この「IMV分析」はあまり前面には出てきません。
よくある数字・統計データの見方の注意であったり、ごく初歩的な行動経済学の適用例であったりと、急に目新しさがなくなります。さらに、それぞれの項目の解説が極めて表層的で、説得力があまりにも貧弱と言わざるを得ません。
強いて、改めて意識しておきたいと感じたのは、「排中律の罠」での示唆ぐらいでした。「排中律」とは、真ん中を排する、すなわち、こちらが正しいか、あちらが正しいかの二者択一を迫る論理です。
多くの場合、強く二者択一を迫られると、その土俵に縛られてしまい思考が停止してしまいがちです。最近では、消費税増税議論がその典型的なケースと言えるでしょう。
最終的な「決断の瞬間」は、やるかやらないかの二者択一になりますが、目的実現のための「手段」の検討フェーズでは、安易な排中律は極めて危険です。
矛盾の存在を前提としてジレンマ・トリレンマを抱えた現代を生きるための、著者の基本的な考えです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?