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クルマの渋滞 アリの行列 -渋滞学が教える「混雑」の真相- (西成 活裕)

 いつも読書の参考にさせていただいている会社の先輩が、以前「渋滞学」という本を紹介されていました。
 そのときから読んでみようと思っていたのですが、今回、その本の著者の西成活裕氏が同じテーマでさらに素人向けの本を出したので、そちらを手にとってみました。

 著者の西成氏の専門は、「非線形動力学の数理と応用」という物理学の分野らしいのですが、本書において、「渋滞学」という自ら創設した新たな学問ジャンル?にチャレンジしています。

 西成氏が対象とする「渋滞」は「クルマの渋滞」に止まりません。「スーパーのレジや銀行のATMの待ち行列」「朝の満員電車」といった人がらみのものから「アリの行列」や「サカナやトリの群」といった動物の行動等にも及んでいます。

 さて、西成氏によると、「渋滞」の研究は、従来の物理学の流れとは異なる新たな視点を提起するものだと意味づけられます。
 その考察の出発点は「自己駆動粒子」という概念です。

(p13より引用) 渋滞を起こす主人公は、すべて一種の「粒子」と考えることができる。ただしその粒子は、さまざまな個性や大きさを持っていて、いろいろな決まりに従って、ときには勝手に動いている。・・・
 渋滞学では、このような新しい粒子のことを「自己駆動粒子」と呼んでいる。

 ニュートン以来300年の伝統をもつ物理学では、自分の意志では動かないものばかりを扱ってきました。それとの対比で、渋滞学が扱う「自己駆動」という概念は、新たな視点からの研究だということになるのです。
 西成氏は、「自己駆動粒子」による「渋滞」のメカニズムを、「セルオートマトン法」を用いた単純なモデルで示し、解明して行きます。

 本書で採り上げられた「自己駆動」という概念は、中央からのトップダウン型集中制御とは相容れない概念です。
 西成氏は、この「自己駆動」が引き起こす集団の特性として「創発」というキーワードを紹介しています。

(p165より引用) 社会心理学の定義では、
創発とは、部分が集まってできた全体が、単なる部分の総和とは質的に異なる、高度なシステムになる現象のこと
となっている

 この「創発」という概念は、“個々の粒子の自律的活動を基本にしつつもその総体は単純な合計を凌駕するものだ”としている点で、非常に興味深いものがあります。

(p173より引用) 信号機を自己駆動粒子として考え、そのサイクルを最適化するボトムアップ方式はたいへん魅力ある研究だ。
 そしてこれが渋滞学で提案している、トップダウンからボトムアップへの移行、つまり「創発的アプローチによる渋滞解消」なのだ。

 「自己駆動粒子」の動きが全体を動的に最適化するという仕掛けは、交通渋滞の緩和に止まらず、集団の自律的な行動の様々なシーンに応用・展開できる楽しみなスキームだと思います。


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