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とんでもなく役に立つ数学 (西成 活裕)

 著者の西成活裕氏は数理物理学者。「渋滞学」で有名になり、最近はマスコミへの登場の機会も増えていますね。

 西成氏の著作は以前「クルマの渋滞 アリの行列」という本を読んだことがあります。そこでは、「自己駆動粒子」というコンセプトを用いて渋滞発生のメカニズムを紹介していました。

 本書は、その西成氏が現役高校生を相手に、身近な課題を解決するための「数学的思考方法」を解説したものです。
 登場する方法は、三角関数といった私でも知っている初歩的なものから、微分方程式、さらには「ソリトン理論」とかいう(私のつたない数学的知識では)まったく理解不能なものまで並びます。

 その中で、私にも馴染みのあるものに「ゲーム理論」がありました。これは「囚人のジレンマ」に代表されるような人間関係を数学的に分析する考え方ですが、著者によると、この応用範囲は身近なところにも及ぶとのこと。たとえば、こんな例です。

(p114より引用) 「他人に思いやりを」という、道徳の世界で言われるようなことが、「ゆずり合ったほうが、社会全体がトクをする」と、数学で証明できる。

 著者の得意な「渋滞」等の現象に見られる集団行動においても、そういう結論に至るといいます。

 さて、この「渋滞学」でも活用されている考え方が「セルオートマトン(cellular automaton)」というものです。

(p165より引用) セルオートマトンは、「0と1」とそれを変化させる「ルール」を使って世の中の現象を0と1の動きで表現する数学で、フォン=ノイマンが1950年代に考案しました。・・・
 ルールを変えるだけでどんな現象にも対応できるので、複雑な現象のシミュレーションに向いている。・・・

 この考え方は、水や空気の動きをシミュレーションすることにも用いられますが、最近では、複数の飛行機の航路設計や携帯電話の基地局設置の検討にも応用されているそうです。
 シンプルなコンセプトですが、とても興味深いですね。

 本書では、こういった直観的な数学的発想とその応用例が、高校生レベルの数学知識を前提とした4回の講義という形式で紹介されています。
 「数学」というと、私などは、論理的で極めて緻密・厳密なものという印象を抱いてしまいますが、確かに遥か昔を思い起こしてみると、その解法に至る過程では俯瞰的な視点や飛躍した発想が有益だった記憶もあります。

(p267より引用) 厳密さといい加減さの両方がわかる、人間臭い数学ができる人こそが、今の社会に本当に求められている人物だと思います。

 著者自らのことを意識したものでもあるのでしょうが、将来ある高校生(読者)たちに贈る「あとがき」の中の著者のメッセージです。



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