見出し画像

感動する脳 (茂木 健一郎)

 以前読んだ「フューチャリスト宣言」で、その著者のひとりである茂木健一郎氏に興味を持ったので手にした本です。

 以前から「大脳生理学」にはちょっとした関心があって、関係の本も数冊読んでみています。そういう流れで、本書に対しては、さらに素人向きの専門知識が得られるのではという期待を抱いていました。が、内容は少々私の想像とは違っていました。

 たとえば、「感情のシステム」についての茂木氏の説明です。

(p50より引用) 意欲を含む感情のシステムが、どのようなかたちで機能しているか。現代の脳科学で感情というのを一言で表わすなら、「生きる上で避けることができない不確実性への適応戦略」ということになるでしょう。

 少々抽象的ですが、面白い定義ですね。

 それよりほんの少し「大脳生理学」的な感じがする記述としては、「前向きの脳」に関する説明の部分があげられます。

(p56より引用) 前向きの気持ちで生きている時には、前向きに生きる時の脳の状態があります。・・・大脳皮質の下の大脳辺縁系を中心とする領域にある物質。この物質が、前向きに生きる時と後ろ向きに生きる時とでは、その状態がまったく違ってくる。
 従って前向きに生きるというのは、実は気のせいでも、心の持ちようでもないのです。脳の中には、実際にそれを左右するインフラが組み込まれているわけです。

 「前向きの心持ち・姿勢」のときには、脳もそういう「状態」にあるというのです。ということで茂木氏はこうアドバイスします。

(p57より引用) 私はよく「根拠なき自信」が大切だと言っています。・・・まずは何の成功体験もないのに、最初に自信を持ってしまうのです。
 「自分は必ずできる」「オレには自信がある」と勝手に信じてしまう。・・・そうすると面白いことに、自信を持っている脳の状態ができ上がってしまうのです。

 すなわち、思い込みによって脳を「前向きの状態」にしてしまうのですね。脳のインフラが「前向き型」になってしまえば、当然、心持ちも前向きになります。「プラス発想のスパイラル」が駆動されるというわけです。

 もう一点、本書のテーマである「感動」についての茂木氏の考えです。

(p196より引用) 感動というものは、心の空白の部分にスッと入り込んでくるものです。心の空白とは、気持ちの余裕と言い換えてもいいでしょう。・・・ちょっとだけ、悩みを隅っこに追いやってみる。五分間だけ仕事のことは忘れて、この美しい風景に集中してみる。そういう意識を持つことで、脳の中に空白が生まれる。その空白の中に小さな感動を入れてやることで、不思議と悩みが和らいだりする。

 このあたりの記述になると、「脳科学者」というよりも「カウンセラ」とか「セラピスト」といった印象をもちます。

 本書の「はじめに」にも、この本の内容はPHP研究所で話した内容をまとめたものと書かれています。「大脳生理学」の概説書ではなく「メンタルヘルス」系の本だと位置づけるとそれはそれで別の面白味もあるでしょう。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?