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GMの言い分 (ウィリアム・J・ホルスタイン)

 現在(注:2009年の本稿投稿時点)、経営再建中のGM(General Motors)
 朽ちた巨木のイメージがあるGMですが、朽ち果てるまで安穏としていたわけではありません。

 本書は、経営陣・社員等へのインタビューをもとに、そのGMの今に至る道程を明らかにしていきます。彼らの口からは、従来のやり方への反省とともに、GM自らがその対策として数々の企業構造の変革にチャレンジしていたことが紹介されます。

(p37より引用) 事態に対応するために、GMは企業構造を変えなければならなかった。徹底的なコスト構造の見直しを進めなくてはならず、それには会社に深く根付いた社会保障の概念を、・・・見直すことが求められた。・・・経営陣は、ただ社員の平和を保つためにクルマを作り続け、社員の給料、年金と医療費を払えるだけの利益を上げればいいという考えに誘惑されていた。・・・このように会社の第一の関心は正直なところ市場にあったわけではなかったのだ。

 GMは、コスト面では、年金・医療費負担を中心とした「社員の福利厚生費の既得権益化」が、利益改善の大きな障害になっていました。
 また、収益面では、消費者のニーズを踏まえた売れる車を世に出すという「基本的なマーケットインの思考」が決定的に欠落していたのでした。

 GMの変革に向けたアクションは多岐に及んでいました。
 もちろんその中には「生産性の向上」も含まれています。お決まりの手法ですが、そのお手本は「トヨタ」でした。

(p121より引用) カウガーはGMがさまざまな経路から学んだリーン生産方式を体系化し、それをグローバル生産システム(Global Msnufacturing System)、略してGMSと呼んだ。・・・
 1996年までに正式には発表されなかったGMSには、五つの原理がある。①従業員の参画、②標準化、③品質の作りこみ、④短いリードタイム、⑤継続的な改良、だ。その全ては直接トヨタから受け継いでいるものだ。

 このGMSは、新規建設された工場から導入されましたが、重要な課題は、このGMSをGM流に慣れ親しんでいる既存工場にも適用できるかということでした。そして、20年余りの期間をかけて、GMはすべての工場でほぼ満足すべきレベルのGMS導入を果たしたのです。

 このようなGMのトヨタに学ぶ姿勢は、新車開発のフェーズにおける「現場重視」のアクションにもつながりました。

(p154より引用) 会社がチーフ・エンジニアに新車発売に取りかかるよう任命すると、バラの率いるチームが、工場代表として製造チーフ・エンジニアを任命する。・・・
 これは、20年前と比較すると劇的な変革を遂げたといえよう。当時は経営側が従業員に向かって「これを製造するんだ。設備はこちらを使ってくれ」と言うだけだった。今では会社が新車の製作を決定すると、工場から代表者が指名され新車発売プロジェクトに関わるのだ。「基本的な問題を作業員の視点から見ることが早くできれば、良い結果が生まれる」とバラは言う。

 新車の開発にあたって初期段階から生産現場の声を活かそうという取り組みをすでに実施し、具体的な成果をあげているということです。

 著者は、本書で、GMも改革し続けていたことを多面的に指摘しています。
 しかしながら、GMは経営危機に陥り、今まさに再建途上にあります。

 ビッグスリーを救済するか否かにあたっては、アメリカにおける自動車産業の「現代的位置づけ」がひとつの議論になりました。
 この点についての著者の主張は明確です。

(p372より引用) 製造業には多様な要素が複雑に入り混じっている。アメリカが求め、必要とする設計・開発の最先端にかかわる仕事を提供するのは製造業である。さらに製造業の端末は各方面へと伸び、ハイテク技術の分野を含む経済のすべてに関与している。健全なテクノロジー産業は、その技術を買い取る自動車産業なしにはありえない。
 そのような観点に立つと、GMは前世紀の遺物どころではない。アメリカの経済を回復し、未来における世界でのアメリカの立場を維持するためにも、GMは絶対不可欠なのだ。

 GMの経営破綻は、もちろん、サブプライムローン問題に端を発した世界的金融危機がもたらした大不況がその主要な原因であったことは否定できません。

 もし、この世界的金融危機がなかったとしたら、GMは繁栄し続けたか?
 この仮定は現実的には無意味ですが、非常に興味深い仮定ではあります。



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