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イソップを知っていますか (阿刀田 高)

 かなり前に岩波文庫の「イソップ寓話集」を読んだことがあるのですが、今回は、「イソップ寓話」を材料にした阿刀田高氏のエッセイです。

 イソップ物語は、安土桃山時代に宣教師によって日本にもたらされました。当時(1593年)、日本語に翻訳、刊行されたのが「イソポのハブラス」。その少し後、江戸時代初期に登場したのが古活字本「伊曾保物語」です。

(p40より引用) イソップ物語がこのとき翻訳出版されたのは宣教師が日本語を学ぶためのテキストとして、であった。天草本〈イソポのハブラス〉と古活字本〈伊曾保物語〉の二冊があり、それぞれ別なルートから翻訳編集されたものらしく、内容には異同がある。

 以前の「岩波文庫」の覚えでも記しておきましたが、イソップ物語は、日本の逸話にも種々影響を与えたようです。
 その中でも有名なものが、「農夫の子どもたちの仲の悪さを諌める話」。一本ではたやすく折れる枝を、7・8本束ねて「一人では折れない枝の束」を示す寓話は、まさに毛利元就の「三本の矢」のエピソードとそっくりです。

 さて、本書。阿刀田氏は〈イソポのハブラス〉を底本に〈伊曾保物語〉に収録されている話も加えつつ、自らのエッセイに仕立て上げています。採り上げたのは130余りのイソップ寓話。そこに簡単な解説?や余話を加えていきます。

 私としては、阿刀田氏一流のウィットに富んだ切り口を大いに楽しみにして読んでみたのですが、その点では、正直なところ少々期待はずれなところがありました。
 紹介されている物語も玉石混交という感じです。これはという話に絞って、その「下心(言わんとする教訓)」を阿刀田氏流に膨らませた方がよかったように思いますね。

 ということで、覚えとして書き記すようなくだりはほとんどなかったのですが、そうは言うものの一つ。イソップ寓話とは直接関係はありませんが、阿刀田氏が文中で紹介している「江戸時代の狂歌」です。

(p212より引用) 敵か身方か、この判断に迷うときには態度保留が良策。弱い立場にある者は、相手を訝ってもことさらに反意・敵意を明らかにすることができないから、
“世の中は、さよう、しからば、ごもっとも、そうでござるか、しかと存ぜぬ”
と江戸の狂歌は歌っている。同意をしているように聞こえるが、その実、具体的なことにはなにも答えず言質を相手に与えないようにする話術の例である。

 最近もこういう話しぶりはいろいろなシーンで見られますね。まさに「今も昔も相も変らず」ということです。



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