「民都」大阪対「帝都」東京 (原 武史)
(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)
タイトルに惹かれて手に取った本です。
著者の原武史さんは、「東京」&「大阪」、「国鉄」&「私鉄」を対置しつつ論を組み上げていきますが、その内容は日本思想史的な色合いで、ちょっと予想外のものでした。
「はじめに」の章で、著者は、人文思想的側面から、鉄道を “シンボリックな装置” として位置付けています。
それは、東京にとっては「国民(臣民)統合の装置」としてでした。
他方、大阪にとっては「民衆文化の装置」としてであり、主役は「私鉄」でした。
大阪を中心とした関西圏には、東京に先立って私鉄沿線をコアにした「民の文化」が生まれたのです。
沿線に開発された分譲住宅地にはじまり、動物園・温泉保養地・歌劇団劇場、さらには百貨店を併設したターミナル駅等々。
こうして日本最大の都市として成長した「民都大阪」ですが、その中にも地域によって大きな風土の違いがあり、それは私鉄各社の沿線の土地柄にも影響を与えました。
そういった私鉄各社の動きの中で、キタの代表選手として隆盛を誇ったのが小林一三率いる阪急電鉄でした。
その勢力の象徴が国鉄の線路を跨ぐ形で建設された「梅田跨線橋」です。
しかしながら、昭和大礼(1928年)に続く大阪行幸を契機に、関西にも「官」の力が誇示されていき、大阪の風土の力関係にも変動が生じました。
さて本書を読み通しての感想です。
メインタイトルにあるように、“鉄道”創世記を舞台にした「大阪vs東京」「民vs官」の図式の(社会学的)解説も大変興味深いものがありましたが、むしろサブタイトル「思想としての関西私鉄」という視点の方が刺激的でした。
「官」が定めた規定(軌道条例)の拡大解釈を強引に推し進めて路線拡大を実現した関西私鉄の経営者たち。
その中でも特に際立った活躍を見せたのが阪急電鉄の総帥小林一三でした。「官」を相手に腹を括って徹底抗戦していく彼の姿勢は強烈な印象を残しました。とても魅力的な人物ですね。
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