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岸惠子自伝 (岸 惠子)

(注:本稿は、2021年に初投稿したものの再録です。)

 著者の岸恵子さん。日本を代表する女優のおひとりですが、エッセイストとしても何冊も著作を世に出しています。

 私としては、岸さんが出演された映画は「悪魔の手毬唄」「女王蜂」「たそがれ清兵衛」ぐらいしか観てはいませんが、それでも流石の存在感でした。

 本書は、ご本人による自伝。岸さんの様々な面を垣間見ることができるとても興味深いエピソードが満載です。

 まずは、岸さんが12歳のとき。当時住んでいた横浜の街が大空襲に襲われました。母親と別れて逃げ惑う岸さん。

(p29より引用) わたしが逃げ出した急ごしらえの横穴防空壕にいた人たちは、土砂崩れと爆風でほとんどが死んだ。大人の言うことを聴かずに飛び出したわたしは生き残った。
 「もう大人の言うことは聴かない。十二歳、今日で子供をやめよう」と決めた。

 その後、「君の名は」の大ブームを筆頭に女優として華々しい活躍を遂げた岸さんは、海外の巨匠といわれる監督から出演のオファーを受けました。

(p103より引用) そんなとき舞い込んだ『風は知らない』撮影の延期に、わたしは呆然とショックを受けた。・・・
 衝撃で打ちひしがれていたわたしに『亡命記』を観たという、フランスのイヴ・シャンピ監督から、松竹を通じて『長崎の台風』(邦題『忘れえぬ慕情』)への出演依頼の電報が届いた。彼の『悪の決算』(原題『英雄は疲れた』)は二度も観て感激していたので、急遽フランス語習得のため、パリに移った。
 大船撮影所からロンドンへ、ロンドンからパリへ、英語からフランス語へ・・・・目まぐるしい変化にわたしの好奇心は燃えた。

 こういったチャレンジングな前向きさが岸さんの生き方の根底にあるのでしょう。

 その後、岸さんはジャーナリスティックな仕事へと軸足を移していきます。アフリカ、イラン、パレスチナ・・・、危険な紛争地帯にも自ら足を運び、現地の模様に自分自身の考えも込めたレポートを試みました。

 本書は、自伝というより “岸さんの言明の著” ですね。岸さんがその人生で貫いて来た信念がストレートに伝わってきます。



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