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光圀伝 (冲方 丁)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 冲方丁氏の小説を読むのは、ベストセラーになった「天地明察」に次いで2冊目です。

 今回の主人公は「水戸光圀(黄門)」
 水戸黄門といえば東野英治郎さんの姿をいの一番に思い浮かべてしまう世代ですが、本書ではどんな人物として描かれているのでしょうか。

 まだ光國が若いころ、宮本武蔵と沢庵に邂逅したシーンの描写です。
 このころは、如何ともし難い大きな格の違いが明らかです。

(p112より引用) 大げさに振る舞ってみせることも傾奇者の流儀である。光國は憮然としたまま、大股で部屋に入ると、武蔵からやや離れたところに、どさりと土産を置いた。本当は相手の眼前に突き出したかったが、何をされるかわからない気がして、それ以上近づけなかった。そのせいで妙に遠回りに相手に近づくことになり、まるで若い虎が、老熟した獣を警戒してうろうろするようであった。

 「詩で天下をとる」との志を抱き、そのためには京人を唸らせろと武蔵に諭された光國は、藤原惺窩の子である細野為景と親交を結びました。そして、その力量をまざまざと見せつけられました。

(p273より引用) 光國は己の書いた和文に目を落とし、
「天下が、よもやこんなにも遠いものだとは・・・。ここまでできた、ここまで書けた、そう思ったときには、詩業の頂はさらに遠く離れたところにある。近づけば近づくほど、頂は高くなるようだ」

 水戸光圀といえば、世直しの「諸国漫遊」
 当然、史実としてはその形跡はなく、紛れもなく後世のフィクションですが、そのあたり、著者は光圀の「大日本史」編纂の史料蒐集の営みとして、こういう形で物語に織り込んでいます。

(p670より引用) かくして、改められた暦が世に流布するようになるのと同時期-光國は、光圀となった。
 そして、佐々をはじめとする史館の精鋭を、過去最大規模の史料蒐集へと派遣した。・・・
 家臣に全国を巡らせるなど、幕藩体制そのものを無視する行いだったが、光圀は平気なものだ。
「世のいかなる関門が、文事文芸を遮るのか。歌は涼風のように世に伝わり、書は慈雨のごとく人に恵みをもたらす。それが人の世というものだ」
 光圀は本心からそう主張し、生涯において譲ることはなかった。

 さて、本書を読んでの感想です。

 正直なところ「天地明察」で感じたような新鮮なインパクトはありませんでしたね。「天地明察」のエピソードを重ね合わせる工夫はありましたが、主人公の光國のプロットも平板、ストーリーも全体ボリュームの割には単調でかなり残念に思いました。
 こちらは、さすがに映画化はされないでしょう。



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