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ワイルド・ソウル (垣根 涼介)

 ハードボイルド系は、かなり前は大藪春彦、ちょっと前は大沢在昌あたりを結構読んでいた時期もありました。が、最近は、あまりこの手のジャンルの本は読んでいません。
 本書は、会社の方のお勧め本ということで手にとってみたものです。

 著者の垣根涼介氏は2000年にデビュー、その4年後に、本作品で大薮春彦賞・吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞の3賞を受賞したとのことです。

 ストーリーは、戦後のブラジルへの政府主導の移民政策にまつわる復讐劇です。娯楽小説ですからいつものような「引用」や具体的なあらすじの紹介はやめておきます。

 読み終わっての感想ですが、一言で言えば、結構楽しむことができました。

 奇を衒ったようなキャラクターは登場しませんが、各々の役回りに応じて人物の性格付けが明確で、絡みの歯切れの良さが際立ちます。また、車や銃のディテイルの書き込み等、この手の小説のお決まりのルールも踏まえていて、ハードボイルド小説としてはオーソドックスな構成で無理がありません。

 ラテンの地・人を基本プロットに据えていることもあり、ストーリーはアップテンポで進みます。特に、犯行現場に向かう車の中、大音量で流れるサンバ「シランダの輪」、このシーンはいいですね。

 ただ、ちょっと残念に感じたのは、主人公たちの具体的な復讐方法でした。冒頭の南米アマゾンの移民開拓の壮絶な描き出しに比べて、若干の唐突感と軽さは否めません。

 逆に、必要以上の無意味な暴力や殺戮のシーンがないのは好ましく感じ、また登場人物のラストもそれぞれ希望を残した形で幕が下ろされたのには、かえって新鮮な印象をもちました。



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