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採用基準 (伊賀 泰代)

(注:本稿は、2013年に初投稿したものの再録です)

 私の知人の間で結構評判になった本なので、遅ればせながらですが読んでみました。

 著者の伊賀泰代さんは世界的に有名な戦略コンサルティングファーム“マッキンゼー”の採用マネジャーを12年務めた方です。本書はその著者が語る「人材論」です。

 マッキンゼーで大切にする人材は「考えることが好きな人物」です。
 採用面談では、まずその点を確かめます。「ケース面接」はそのためのツールです。

(p38より引用) 「頭の中から、解法という知識を取り出すこと」と「考えること」がまったく異なる行為であることを、コンサルタント、すなわち面接担当者は日々、徹底的にたたき込まれています。このため、候補者が目の前で「頭の中に保存してある解法を探す」プロセスに入った瞬間に、「この人は、考えるより知識に頼る人だ」と判断してしまうのです。

 そして、この考える能力は、「分析力」に代表される“掘り下げる”方向ではなく、「仮説構築力」「構想力」といった“組み上げる”方向での発揮が期待されるのです。

 この「仮説構築力」「構想力」をもって、組織は「成果」を求めます。そこに必要なのが「リーダーシップ」です。
 この「リーダーシップ」と組織内の「役職」との関係性について、著者は重要なポイントを指摘しています。

(p99より引用) この順番が重要です。「役職が先でリーダーシップが後」なのではなく、必要なリーダーシップをもっていることが証明されて初めて役職に就くのです。

 このあたり、しばしば、「役職」がそれに相応しい人を作ると言われる日本企業の考え方とは明らかに異なるものです。目的意識と時間概念の差でもあります。

 さて、著者は、リーダーシップを発揮する人、すなわち「リーダー」のなすべきタスクを4つ示しています。シンプルですが、とても重要です。

(p133より引用) リーダーがなすべきことは①目標を掲げる、②先頭を走る、③決める、④伝える、の四つに収束します。

 この4つの中のひとつ「決める」について。
 決断は、誰もが思い浮かべるリーダーの最重要行為ですが、その決断は、必ずしも「絶対の目標」ではありません。リーダーの決断は、より大きな「成果」をもたらすための「手段」でもあります。

(p146より引用) 準備が完璧になるまで決めないという意思決定方式は、一見、責任感のある正しいやり方に見えます。しかし、準備を完璧に行うことが可能だと思っている時点で、この考えは極めて傲慢であり、非現実的です。そうではなく「常にポジションをとり、結論を明確にしながら、その結論に対して寄せられる異義やフィードバックを取り込んで、結論を継続的に改善していく」やり方のほうが、現実的な場合もあるのです。

 こういうやり方が、著者の説く「リーダーの基本動作」です。そして、こういった考え方・動き方は、特殊な能力をもった人しかできないといった類のものではないのです。

 大きな課題を目前にすると、多くの人は救世主を求めます。著者はそれを「スーパースターシンドローム」と呼んでいるのですが、一人の超人的リーダーが現れても、それだけでは世の中を大きく変えることはできません。

(p182より引用) 現状を変えられるのは、神でもスーパースターでもありません。必要なのは、組織のあらゆる場所で、目の前の変革を地道に主導するリーダーシップの総量が、一定以上まで増えることです。

 この「リーダーシップ・キャパシティ」を如何にして大きくするかが、変革力の大きさの最重要ポイントなのです。
 小さな問題でもいいのですが、何か問題に直面したとき、人はふたつのタイプに分かれます。

(p196より引用) 最初のタイプは、何らかの問題に気がついた時、「それを解決するのは、誰の役割(責任)か」と考えます。もう一方の人たちは、それを解くのが誰の役割であれ、「こうやったら解決できるのは?」と、自分の案を口にしてみます。この後者の人を、リーダーシップがあると言うのです。

 「私が動くべきことではない、別に動くべき人がいて、その人に任せておけばいい」、こういった考え方からは「リーダーシップ」は生まれません。
 如何にして「他人ごと」を「我がこと」「皆のこと」と捉えられるようになるのか、著者は、きちんとした訓練を受けることによって誰しもできるようになると考えているのです。

 本書のタイトルは「採用基準」とありますが、内容は、マッキンゼーにおける人事採用マネジャーとしての経験を踏まえた「リーダー育成論」でした。



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