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検証 政治改革 なぜ劣化を招いたのか (川上 高志)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 いつもの図書館の新着本リストの中で見つけた本です。

 興味を惹いたタイトルではありましたが、何より、著者の川上高志くんが大学時代の友人だったというのが手に取った最大の要因です。
 大いに期待して読んでみたのですが、予想どおり重要な論点を押さえつつ、しっかりした立論が展開されていました。

 まず、著者は、本書で検証を試みた対象である「平成の政治改革」のエッセンスをこう概括しています。

(p42より引用) 最大の目標は、国内外の転換期のさまざまな課題に「戦略的・機動的」に対応するため、「政治主導」の政策決定の体制を確立することだ。そのために、有権者が「政党本位」「政策本位」の選挙で政権を選択する小選挙区制によって「民意を集約」した基盤の上に安定した政権を作り、「政治における意思決定と責任の帰属の明確化」を実現する。政治主導の中核となるのは首相であり、首相とそれを補佐する内閣の権限を強化して「官邸主導」の体制を作り上げるとともに、「内閣の人事管理機能を強化」して官僚機構は「縦割り行政の弊害を排除」して政策決定を補佐し、執行に当たる。
 ただし、一定の「民意の反映」にも配慮するため選挙制度には比例代表制を加える。政治主導を担う政権は「国民への説明責任」を負い、政権が運営に失敗した場合は「政権交代」によって責任を取らせることで、「責任の帰属の明確化」を図るという政治体制である。

 こうやって “文字” で示されると、目指すべき方向性という点ではこういうやり方もありうるだろうと思いますが、しかしながら、この政治体制は、現実的には「強すぎる首相官邸」と「責任を取らない政権トップ」という “悪しき官邸独裁” を産み出してしまいました。

 こういった「強すぎる首相官邸」に代表される行政の機能不全という状況を監視し必要な歯止めをかける機能としては、国会の国政調査権がありますが、内閣を構成する与党がその権限を発動することは期待できません。
 そこで「メディア」の存在がスポットライトを浴びるわけですが、ここにも「大いなる劣化」が見られます。

(p154より引用) 政権を監視する役割の一端をメディアが担っているのは改めて強調するまでもないことだ。しかし、二〇一二年の第二次安倍政権以降、メディアの権力監視の力が弱くなっていることを認めざるを得ない。政権側はメディアに対する圧力を強めるとともに、メディアを選別することによって分断を仕掛けた。これに対して、メディアの側が十分に抗することなく、報道を控えるなどの自己規制すら働いていると指摘されるのが現状だ。

 政治家や官僚が自らの「利己的な動機」で権力に迎合する性向は、“人間の弱さ” の発露として全く理解できないとは言いませんが、“メディア人” が批判精神を失うのは、まさに自らのレーゾンデートルを否定するものでしょう。せめて、ここは気概をもって踏ん張って欲しいものです。

 さて、“悪しき官邸独裁” は「責任を取らない政権トップ」の存在を黙認しました。
 そもそも、平成の政治改革において想定していた「責任の取り方」は「政権交代」でした。それを可能とする前提条件は「政権交代の受け皿としての野党の存在」ですが、その点について、著者は「現行選挙制度の問題」という観点からこう語っています。

(p91より引用) 小選挙区では一人しか当選しないというゲームのルールに従えば、政権交代を目指す非自民勢力が対抗するためには候補者を一人に絞り込まなければ勝ち目はない。非自民勢力も一九九四年の制度導入以降、政党の合併・合流や選挙での共闘など一つの「まとまり」に結集する試みを繰り返してきた。しかし、その試みは失敗の連続だった。その結果、多くの有権者が「自民党に代わって政権を担える政党が存在しない」という思い込みに至っているのが現状であり、政治そのものへの失望の一因にもなっているのではないか。
 野党結集の難しさは、小選挙区制のためには大きな政党にまとまることが望ましいが、それを目的に合流すれば、今度は政党としての理念・政策が曖昧になり、内部に対立を抱え込んでしまうという問題に常にさらされることだ。

 こういった説明は、事実に即して無駄がなくとても分かりやすいですね。

 本書では、この現行選挙制度をはじめとして、国会、政党、政官関係等多岐にわたる観点から現状の政治の課題を次々に明らかにしていきます。

 いくつもの改善すべき問題があって、その対応策がある程度具体的に見えている。にもかかわらず、その問題は長年にわたり放置され実際の改善アクションがとられない・・・。
 その根本原因はとても単純だと思います。“今の環境で快適な立場にいる人は敢えてその環境を変えようとはしない” という当然の姿勢の故です。

 それを打破するための強力な方策は、(本書でも指摘していますが、)国民一人ひとりはもちろん、政治に係るありとあらゆるステークホルダーが “本来の理想” を実現しようとする強い意志を持つこと、そして、そのための広汎な「主権者教育」なのですが、その教育内容を決めるのも今の環境に安穏としている人間ですから、なんとも道は遠いです・・・。

 ただ、そういう状況だからこそ、本書で整理され論じられている著者からのメッセージを、少しでも多くの人が受け取ってくれるよう期待したいですね。
 “自らの頭” で今の政治状況について考えてみようとする読者にとっては、本書が示した論点の整理と議論のスタートとしての改善案の提示は、とても有用な「ガイド」になると思います。



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