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チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (塩野 七生)

 以前、「ローマから日本が見える」という塩野七生氏の本を読んだ際、お世話になっている会社の上司からBlogにコメントをいただき、薦められたのがこの本でした。

 塩野氏の初期の作品です。
 主人公のチェザーレ・ボルジア(1475~1507)は、ルネサンス期イタリアの政治家。教皇アレッサンドロ6世の庶子で、父が教皇となった後にバレンシア大司教、枢機卿を務めました。その後、中部イタリアに自らの公国をつくろうとして失敗、脱走後にスペイン北部のナバーラで戦死しました。権勢欲の強い陰謀家、政敵に対しては残忍な人物として悪名を馳せましたが、マキアヴェッリの著作「君主論」では高く評価されています。

 当時、かのレオナルド・ダ・ビンチもチェーザレ・ボルジアに仕え、主任建築家・軍事技師として中部イタリア教皇領の要塞建設の監督の任に就きました。

(p186より引用) レオナルドとチェーザレ。この二人は、互いの才能に、互いの欲するものを見たのである。完全な利害の一致であった。ここには、芸術家を保護するなどという、パトロン対芸術家の関係は存在しない。互いの間に、相手を通じて自分自身の理想を実現するという、冷厳な目的のみが存在するだけである。保護や援助などに比べて、また与えるという甘い思いあがりなどに比べて、どれほど誠実で美しいことか。

 いかにも塩野さんらしい強い筆致ですね。

 さて、本書についてです。

 本作品は小説ですからストーリーについては詳しくは触れませんが、全編を通して、著者の主人公チェザーレ・ボルジアへの思い入れが強く感じられます。
 巻末の沢木耕太郎氏の解説によると、塩野氏の作品の多くにチェーザレは登場しているとのこと。本作品でのチェーザレ、その生き様は正に凄まじく、強烈な個性が光る魅力的な人物として描かれています。

 己の野望に向かって冷徹かつ攻撃的に爆走するチェーザレの姿は、(数十年時代は下りますが、)ほぼ同時代の日本の戦国武将織田信長に通じるものがあります。
 ただ、チェザーレ・ボルジアの活劇の舞台は、中世のイタリア・フランス・スペイン・・・、ちょっとスケールが違います。


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