からくり民主主義 (高橋 秀実)
(注:本稿は、2012年に初投稿したものの再録です)
単行本で出版されたのは10年ほど前、ちょっと古い本ですが、タイトルが気になったので手にとってみました。
著者の高橋秀実さんはテレビ番組制作会社の勤務を経てフリーになったノンフィクション作家です。
本書は、賛成・反対双方の声が渦巻くいくつかの社会問題の現場を訪れ、自らの眼と耳で取材した実相レポートです。そこには、テレビ等のマスコミで伝えられている実態とはまったく別の現実がありました。
たとえば、第6章「反対の賛成なのだ」で取り上げた沖縄の米軍基地問題。
ヘリポート基地建設の舞台となった辺野古でみんなの海を守ることを訴えている「ジュゴンの会」事務局長の島袋等氏の言葉です。
単純な二項対立の図式を示し、反対派の活動を殊更クローズアップするマスコミの姿勢に、地元では辟易しているというのが現実のようです。
もうひとつ、第7章「危険な日常」で登場する大飯町役場職員(前町長の息子)時岡兵一郎氏の言葉。
(p238より引用) 「反対運動は大切ですわ・・・」
大飯町は関西電力大飯原子力発電所を抱える福井県の町です。時岡氏によると、原発誘致に関する住民の声としては、賛成55、反対45くらいがちょうどいいのだそうです。
適度な反対の存在は地元への補償の増加にもつながることから「『誘致賛成派』にとっても望ましい」といいますから、何がなんやら訳が分からない・・・という感じです。
反対派のひとり田代牧夫氏の自嘲をこめたこの言葉はとても印象的です。これといった産業もない地方自治体の一つの実態なのでしょう。
さて、本書の序章「国民の声」で、「テレビの機能」として、こう著者は語っています。
今この「世間」を生み出す機能がネットの世界にも具備され始めています。テレビ・新聞といったオールド・メディアが伝える「世間」が0次情報の伝播により否定される場合もあれば、逆に、少数意見としての「つぶやき」がいかにも大衆の総意であるかのように拡大・拡散される場合もあります。
最後に、蛇足です。
今話題の大飯原子力発電所ですが、本書でみる限りの誘致経緯から察すると、十分な立地条件の精査がされたか否かについては、大きな疑問を抱かざるを得ないですね。
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