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カオールは香る【世界多分一周旅 ルピュイの道2023⑨】

Versという村からCahors(カオール)まで。
2023年のルピュイの道、6日目の続き。

2022年12月~2023年11月に世界をぐるりと旅した「世界多分一周旅」の途中の、歩き旅「ルピュイの道」の記録。
2019年の春に、フランスの「ルピュイの道」を歩く旅をして、コンクという町でその年は終了。
2020年の春に、コンクから続きを歩く予定だったが、コロナ禍で行けず、4年の年月が流れ、2023年にようやくコンクに戻って来られたので、その旅の続きを。

前置き

コロナ禍の空白の4年を経て、再びフランスのルピュイの道を歩き始めたが、6日間経過したこの日を、一旦最終日とすることにした。
歩き始める前の計画としては、世界多分一周旅の途中に、4年間中断したまんまのルピュイの道を慣らし運転で気が済むまで歩いてみて、適当なところでまた区切って終了し、それからポルトガルのポルトという町に行ってサンティアゴ・デ・コンポステーラまでのポルトガルの道240㎞くらいを歩き通そうと考えていた。
私の世界多分一周の計画はざっくりしていて、ヨーロッパに90日間MAX滞在する中で、ポルトガルの道を歩く2週間は絶対確保し、スペインに1ヶ月ほどいたいし、それ以外は、友達の住む町に会いに行ったり、これまで訪れていなかった西欧や北欧に1ヶ月くらいかなあというどんぶり勘定プランであった。
5月1日からヨーロッパに入ったので、あまり暑くなるとルピュイの道とポルトガルの道を歩くのは大変だから、どうしても5月の前半に持ってきたくて早々に歩き始めたわけだが、なんせ荷物が重すぎる。スペイン在住のお友達てんやわんやさん宅に2㎏弱使わない荷物を送りつけて預かってもらってはいるものの、それでもまだ重い。
それに加えてアップダウンの激しいルピュイの道がなかなかハードで、まだ足が出来上がっていないこともあり、右足の親指の爪が剝がれつつあるし、爪の付け根が腫れて痛い。毎晩パトリックに足裏をマッサージしてもらっても、爪の剥がれかけの痛みはどうにもならない。
かばって歩くので膝も痛くなりつつある。
インドで喘息による体調急降下からの緊急帰国を体験したのがほんの1か月前なので、何事も手遅れになる前に対処する重要性を痛感しているので、あまり無理をしたくない。
でもこの道で出会った人たちともう少し一緒に過ごしたいな。
そういう気持ちに揺れまくるこの2日間だったが、私は2023年のルピュイの道の旅は今日で終わることを決めた。
旅は選択の連続なのだし、選んだ先でまた新しい世界が広がっていて、新しい出会いが待っていることを世界多分一周旅の中で毎日感じているのだから。


そんな訳で、突然の最終日。
今日は歩く距離が20㎞弱と短いこともあり、みんなと一緒にゆっくりと朝食を食べてから出発することにした。
フロホンスとマハレンとナタリーとパトリックと一緒に朝食を食べる。マハレンが「私の天使に神のご加護がありますように」というようなことを祈ってくれて、3人で交互にハグをして別れた。
ナタリーとパトリックもちょうどそれぞれ別の道に進む日でもあったため、雨の中を一緒に歩いて、山の上の分かれ道のところでハグをしあってお別れをした。
雨が降ってくる中、ロット川沿いの素敵な小径を歩く。今日のルートはアップダウンがそれほどなく、綺麗な川沿いのフラットな道をずっと歩いて進むので好きな種類の道である。しかし、雨が降っていて寒いのもあり、あまり立ち止まらずに進んだ。途中でおしゃれなピクニック形式のスペースがあり、まだオープンしていなかったが、小雨の中誰もいなかったので少しの間拝借して、早めのランチタイムにした。
ナタリーとパトリックとも別れて、一気に心の中が静かになった。もうすぐカオールの村に着くけれど、4日前に別れたパパとハビエルと会えるのだろうか。2人がカオールのどこの宿に泊まるかは知らないけれど、どうにかどこかで会えるんだろうなという根拠のない自信がある。
カオールに行ったら絶対このお店に寄った方がいいというお勧めのお店を、ナタリーから聞いていた。ケーキが美味しいらしい。ケーキを食べるから、ランチは抑えめにして先に進もうか。雨足も強くなってきたし、パパとハビエルとケーキに向かって、先を急ぐことにした。

甘いパウンドケーキとかが朝食に出がちなフランス
道しるべ。いろんな分かれ道がある。
ナタリーとパトリックと私。
それぞれ別の道を進んだ。
また会おう!
天気がどんよりだけど、いい景色。
のどかなロット川沿いの小径を気持ちよく歩き続ける。雨だけどね。
ランチ場所見っけ!
みんな、おにぎり、食べてくれてるかな。
この木の花がとてもいい香りがした。
「春のフランス、ルピュイの道を思い出すとき、私はきっとこの花の香りを思い出すだろう。」
っていうタイトルの映画を撮りたい。
最後の最後に、土砂降りになってきた。雨の洗礼!


橋を渡って川に囲まれた入江のような村カオールに入り、豪雨でポンチョごとずぶぬれになりながらケーキ屋に向かう道中で、ばったりとナタリーに会った。つい3時間ほど前に大げさに「また会おうね!」とハグし合ってさよならしたのに、早速出会ってしまって笑った。
「あなたにカオールの話をして、ケーキ屋の話をしていたら、食べたくなっちゃって、カオールに寄り道することにしたの。今ちょうどケーキを食べてきたところよ」とのこと。カオールに寄り道してしまったので、カオールから電車に乗って次の旅の目的地まで向かうことにしたらしい。(別の海沿いのトレイルロードを1週間くらい1人で歩くらしいナタリー。自由で良い。)
もっと早く歩けていれば一緒にケーキを食べられたのに残念である。
とりあえず雨宿りがしたいから、小走りでケーキ屋に向かった。

フランス語は基本的に全く分からないので、ケーキは指をさして2個注文。
大きめのケーキは倒して盛り付ける系フランス
巨大かつ激ウマ

ケーキ屋(と認識しているけど実はベジタリアンレストランのよう)に入るとずぶ濡れの私を見て、店員さんがコート掛けを持ってきてくれて、ポンチョを干すように言われた。寒いだろうからとストーブの近くの席にしてくれて感謝。巨大ケーキを2つだけ頼んで、ナタリーに写真を送って、ケーキのチョイスを誉められて、いい気分でモグモグ食べきった。


今夜泊まる宿は、ナタリーとパトリックが勧めてくれたユースホステルの運営する大箱のホステル。チェックイン開始時間になるまでロビーでポンチョと靴下を乾かしつつ、パパは今夜本当にカオールにたどり着けるのだろうかと心配になってメッセージを送ったところ、なんと、ここにパパがやって来たのである!
わー、パパ!
4日ぶりに、場所を指定せずに偶然再会。パパも驚きつつ、「カオールに泊まる巡礼者はほぼみんなここに泊まるよ」というようなことをフランス語で言っていた(多分)。
一緒にチェックインをして、「晩ごはん、一緒に食べよう」と誘ってもらったので、レストランで待ち合わせることにし、その時間までの間、熱いシャワーを浴びて、テラスでのんびりして、少しカオールを散歩することにした。

パパの背中。
巨大ホステルのテラスから
やっと晴れた夕方。
部屋からの眺め。
部屋はこんな感じ。女性3人部屋だけど、他に誰も同室者はいなくて独り占めできた。

宿からは、カオールのランドマーク的な橋、ヴァラントレ橋が見える。ロット川に囲まれたカオールの村に架けられたこの橋の両端と中央には監視のための塔があり、中世で要塞のような存在だったらしい。ルピュイの道の巡礼路は、この橋を渡ってカオールを後にして次の町へと向かうルートになっているので、次回の旅はこの橋から再開させることとなる。今回のルピュイの道の旅の終わりでもあり、次の旅の始まりの場所にもなる。次にまたこの地に来るのかと思うと、不思議な気分になる。それがいつになるのか、どんな自分になっているのかは分からないが、この橋を渡る日を楽しみにしていようと思った。

旧市街地を抜け、レストランに到着。パパが笑顔で待ってくれていた。
ルピュイの道、最終日の夜を記念して肉を食らうことにし、ステーキをほおばった。
パパと久しぶりにGoogle翻訳を用いて静かな会話をする。
これからの私の旅のプランや、パパのプラン、キャンピングカーの写真を見せてくれてこれまで旅したヨーロッパの国々の写真を見せてくれたり、家族の話をしたり、私の前の仕事の話をしたり。
離れていた4日間にそれぞれが歩いた道の話をしたり、写真を見せ合ったり。
お互いの足の痛みを伝え合い、私は4日間、パトリックという足裏の魔術師と出会い、毎晩足裏マッサージをしてもらっていたことを伝えたり、パパは新しい膝のサポーターを買ったことを教えてくれた。
私が、ロット川沿いのとってもいい香りのする花について話をし、今回のルピュイの道の旅で象徴的な素敵な花の香りだったことを写真を見せながら伝えた。するとパパが、花の名前を教えてくれた。
「アカシア」
甘い香りがするアカシアの花は蜂が寄ってくるからはちみつがたくさん採れることや、花を食べられるらしく、ドーナツを作る時にアカシアの花を採って混ぜることや、アカシアの木が強くて、ワインを作る時のブドウ畑の支柱に使うことなどをゆっくりとGoogleを通して教えてくれた。

ヴァラントレ橋
パパがとにかく翻訳
焼いた肉の香りはいつどこで嗅いでも最高
パパの手元を見れば、慣れない手つきなのが分かってもらえるだろうか。
この花、めっちゃいい香り!と伝えた。
これはアカシアの花。
摘んでドーナツを作るよ。
アカシアは耐久性の高い木で、ぶどう農家はワインのためのぶどう畑の支柱に使うよ
パパの名はジャンマリ。
巡礼のシンボル貝殻を折り紙で折って、巡礼の道で出会った人に渡す活動。
帰り道のカオール。

匂いは記憶と強い結びつきがあるから、アカシアの花の香りを嗅ぐたびルピュイの道の思い出が蘇ると思う。
だけど、ドーナツやブドウ畑、はちみつを見るたびに、パパとこうやってGoogle翻訳でやり取りしたことを思い出すだろうし、アカシアの香りはカオールの思い出と結びついて、ぶわっと広がることだろうと思う。
ルピュイの道、最後の夜、初日のコンクで出会ったパパと2人で思い出深い夜を過ごせた。
この夜があるから、次に進める。
私はまた別の道を歩く。
ありがとう、ルピュイの道で出会った人たち。
またね。


追記。
そういえば「ハビエルはどこにいるの?」とメッセージを送ったら、こんな写真が返ってきた。
「雨で足止めを食らって、歩くのが楽しくないから、ボートに乗って進むことにしたよ。」
自由すぎる選択。

そこどこなん。
もう南米にいるかのような写真。

ハビエルとはカオールで再会できなかったので、「秋に南米で会おう!」と約束をした。
大ざっぱすぎる約束に笑った。



サポートしていただければ、世界多分一周の旅でいつもよりもちょっといいものを食べるのに使わせていただきます。そしてその日のことをここで綴って、世界のどこかからみなさんに向けて、少しの笑いを提供する予定です。