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メコン川スローボート事件簿1日目【ラオス#1】
ラオスに入国。
スローなボートでメコン川300kmの距離を2日間かけて進み、ラオスの古都ルアンパバーンへと向かう旅。
とにかく色んなことがありすぎた。
見たものや起きたことをiPhoneにメモしていったらめちゃくちゃ多くなって、途中でメモるのをやめたくらい。
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まずは国境越え。
イミグレを通り、バスで友好橋を渡る。
タイの国旗が途中からラオスの国旗に変わって少し実感が湧く。
ちょっと橋を渡っただけで異国になるのは、いつ体験しても不思議である。
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ここからが少しややこしかった。
日本人の私はビザなしでラオスに入国できるが、他の欧米人はビザがいるため長蛇の列。誰もいないビザなしの窓口へ私だけが進んだ。
タイのチェンコーンからラオス側のフエサーイへ上陸。ここからスローボートで2日間かけてルアンパバーンを目指すわけだが、ルアンパバーンへ向かう団体は私以外はツアーだったようで、大型のバスに乗り込んでいく。一緒に国境を越えた仲間のロイとラリーはルアンナムターという北部へと進むらしく、ここでお別れ。
私は1人取り残され、シェアする人も全く現れないため、1人で乗り合いバスを貸し切ってフエサーイのスローボートの船着場まで向かうことにした。(30分の距離だったが、2日間乗るスローボートとあまり変わらない値段だということに納得がいかない。)
バス(という名のバン)は車線の右側を走る。そして左ハンドル。タイとは全て逆になり変な感じがした。
船着場に到着して急いでスローボートのチケットを買いに行く。ツアーご一行様が大勢いたので1日1便しかない1時間後の船に乗り損ねては大変である。
チケットを買って、船着場にあるサンドイッチ屋さんでバゲットのチキンサンドを買い、ウキウキしながら船に乗り込んだ。
さてここからが本当の波乱の幕開け。
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まず、船に乗り込んで、数秒で落とし穴に落ちた。
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信じられない。
真ん中の底板が取り外されているなんて。
既に乗って座っていた人全員が私の落ちる瞬間を見ていて、オウマイゴッドがあちこちから聞こえた。
落ちただけでなく、板で右すねと左膝を思い切り強打し擦りむいて出血。
笑っていたラオス人乗組員も慌てて引き上げて、足の治療に取りかかってくれた。
ありがたいが、私はこういう怪我は想定内なのでバックパックの中に軟膏が入っているから、アルコールで消毒してからそれを塗らせてくれと頼んでいるのに、ほとんど英語の喋れないラオスの乗組員たちが緑の液体1滴と白い粉を私の血が出ている部分にふりかけた。
気持ちは嬉しいが一体それは何。
頼むよ、変な感染症とかになりたくないのよ。
しかし、優しそうな微笑みを信じることにした。絆創膏を貼って手当ては終了。擦り傷は大したことないが打撲のダメージが大きくて足を組んだりできないのが、これから丸二日間座りっぱなしのスローボートでは辛い。
打撲が痛くて泣きそう。
でも船のみんなが笑っているから私も笑うことにした。
それから隣の席がゆうちゃみ似のラオス人ギャル。彼女がなかなかの曲者であった。私の席の足元にぎっしりと荷物を置いて、私が来ても、どけてくれない。
「そこに荷物があると座れないからどけてくれませんか?」と頼んでもチラ見で終了。
丁寧な英語で言っても無理だったので、船員を呼んで「これをあっちに持って行って」と頼んだが「ノーノーノー!」と言うゆうちゃみ。
「ここに荷物を置いてあると、私が座れないのがお前には分からないのか?」とこちらも喧嘩腰で伝える。なんせ私は足を怪我してホヤホヤの状態で、むしろ横になりたいくらいである。
私が落ちた落とし穴は荷物を入れるスペースになっているのだから、「そこに入れろ」「ノー!」の繰り返し。
あまりに腹が立ったので、私の足元にのさばっているゆうちゃみのバカでかい荷物を私が持ち上げて船員に勝手に渡して「あっちに持って行って!」と言って私は座席におさまった。
ゆうちゃみがものすごく睨んできたが、私はS字フックを取り出して自分のリュックを窓枠に引っ掛けて悠々と痛めた足を伸ばしてリラックス。
第一ラウンド私の勝利。
がしかし、ゆうちゃみも負けてはいない。
隣で延々とスマホから爆音を鳴らす。
ちらっとのぞくと自分のtiktokである。口を尖らせてスローボートで撮影しては再生したりしている。
イヤホンしろよと思いつつ、ここは私が譲って私の方がイヤホンをした。
第二ラウンドゆうちゃみの勝利。
そして席は当たり前のようにはみ出して座り、1.2:0.8の割合で私の領土が狭い。腕を伸ばして自撮りはするし、爆音で謎ミュージックは鳴らし続けているし。
しまいには椅子の上であぐらをかき始めてゆうちゃみの右膝が当然のように私の左太ももの上に乗った。私の左太ももの柔らかさに甘えているようだ。もう戦意喪失で私は太ももをゆうちゃみにしばらく貸すことにしたが、汗ばんできて不快になってきた。
なんなんだこの女。
呆れてしまったが、作戦を変えて、リュックからバナナマフィンを取り出して、ゆうちゃみに「1つどう?」と言ってあげてみた。
平和条約を結ぼうと思ったが、ゆうちゃみは私をジロッと睨んで、サンキューもなく無言でマフィンをとって食べ始めた。
なんなんだこの女。
もちろん、私の太ももの上の膝はどけてくれない。
国境を平気で越えてくるこの女に腹を立てるのも疲れたので、船員に「席を代わりたい、こんな状態なので」とゆうちゃみの足を指さして、私は船の最後尾へ足を引きずって撤退することに決めた。引き際も肝心。
最終ラウンドはゆうちゃみの優勝。
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私は足を怪我している。
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ゆうちゃみがtiktokに夢中な間、欧米人の集団はパーティーを始めた。
Bluetoothスピーカーでパーティーミュージックをかけて、大量に持ち込んだビアラオで乾杯が始まった。
後ろから見ていたら、どうやら9割7分が欧米人のパリピ、2分がゆうちゃみ含む現地人、1分が私を含むパリピじゃないのに船に乗っちゃってる人である。やれやれ。
私は荷物置き場で(ここは静けさを求めて逃げ込んだ1分の人たちが集まっていた。)、1人、裁縫道具を取り出して、おばあさんのようにズボンのほつれを繕ったりして快適に過ごした。
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4時間ほど乗っていたら、船が何もないようなところで停まって誰かが降りて行った。
よく見ると、大量の荷物を抱えたゆうちゃみだった。
ゆうちゃみだけがなぜかよく分からない場所で降りたのである。
よくも1人であれだけの荷物を抱えて行けるなというほどの荷物。私が勝手にどけた荷物もあった。小さくなっていくゆうちゃみを船から見ていたらなぜか笑けてきた。
家族のためか何のためかは分からないけど、タイで大量に何かを買って、こんな何もないところにある家に1人で抱えて帰っていくのかと思うと、頑張れよと思えた。荷物がたくさんあると、自分の側に全部置いておきたいよな。忘れたら大変だもんな。tiktokで世界と繋がりたいよな。ゆうちゃみ、可愛いもんな。スマホの画面にハートがいっぱい飛んでたもんな。だけど社会のルールは守れよ。
そう思いながらゆうちゃみを見送って、私は隣が空席になったはずの自分の席にまた足を引きずって戻った。
すると、また世界が変わっていた。
酔っ払った欧米人の男女がゆうちゃみの席の横で腰をくっつけて踊っている。
ラッパーみたいな男が立って、手でYO!みたいなフリをして早口で歌っている。
床はびちょびちょに濡れている。
またまたカオスな世界になってしまっている。
私は遠慮気味に、「そこ、私の席なので」とラッパーに言って通してもらい、席に座った。ゆうちゃみの席には世界中のチャラさを集めたみたいな男が座って、女を膝に乗せたり、ビールを飲んで歌ったりした。
女は黒いガードルのようなスパッツをショートパンツ代わりにしてはいていて、上はゆるゆるのタンクトップに水着みたいな布切れのブラジャーが見えまくり。
えっと。あと何時間乗るんだっけ。
インド映画を余裕で1本見れる時間が残っている。
チャラ男に2回ほど、「ごめん、トイレ」と言っては退いてもらったりしたが、パーティーに夢中で全然こちらを見てもくれない。そりゃ、布切れだけあてた胸を見るのに忙しいわな。
濱田岳にそっくりのキャップを後ろ向きにかぶっている背の低いアメリカ人が巨大な発泡スチロールにビールやウィスキーなどを氷と共にしこたま持ち込んできており、めちゃくちゃ飲んで騒いでは、発泡スチロールの蓋を割って氷が飛び出ててんやわんや。
しかし、なぜかこの乱痴気騒ぎは心地よい。ゆうちゃみの気が狂いそうな爆音のtiktokよりも、全然身を置いていられるのは何故だろう。
時々、くりくりパーマでメガネの男が小さいカメラを持って中継をしている。
後で分かったがフランスで割と有名なYouTuberらしい。
私の後ろに座っていたカップルはロシア人で、自分の番号ではない座席に座っておきながら、その番号の人たちが来てチケットを見せて「ここ私たちの席なんだけど」と言っても「先に座ったのは私たちなんだから、あなたたちがどこか別の席に座りなさい」と当然のように言い、一歩も譲らなかった。
ロシア人が旅行していることに正直驚いたが(そして堂々と「自分はロシア人だ」と名乗ることにも、そして振る舞いにも正直驚いた)、その後も何人ものロシア人旅行者に出会ったから、私の知る世界は一部なのだろうと思ったりした。
このロシア人カップルは、翌日とても私に優しくしてくれたから、今は大好きではあるが、この時は、こいつらはなんて厚かましいんだと心の中で思った。
気弱で席を奪われた人たちも最後尾の荷物置き場にいてのんびり座れていたから良かったけれど、どう考えても座席数よりも多い人数の人がこの船に乗っている。
船の座席は、バスのシートをちぎってきて置いただけの可動式の椅子なので、パーティーが始まると自由自在に席を動かして踊れるスペースができていたり、床に寝ているパリピもいた。
色んな人おるで。
つい日本語で独り言を言ってしまう。
ここが世界の縮図のような気がした。
しかし、個人で国を判断してはいけないし、国を個人で判断してはいけない。
よく分からない世界の中にのまれながらそう思った。
予想外のパリピクルーズ。
唯一のおとなしいジャパニーズは静かに微笑みながら、バナナを食べてやり過ごすことにした。
2日目に続く…
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