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この道で最もクールな宿【ポルトガルの道#3】

歩いて旅する、ポルトガルの道3日目の朝。
今日は山越えが2つあるらしいので、いつもより早い6時前に起きて、6時に出発した。

世界多分一周旅中ではあるが、私のライフワークともいえる歩き続ける旅「カミーノ」を、長旅の途中に組み込んだ。
通称「カミーノ」とは、スペインの北西にあるサンティアゴ・デ・コンポステーラという町の大聖堂を目指して、そこへと繋がる巡礼路がいくつもあり、道ごとが世界遺産認定されている美しい道。2015年~2017年に「フランス人の道」というフランスから東西に延びる800㎞のメジャーなルートを歩き通し、次に2019年と2023年にフランス国内のルート「ルピュイの道」を少しずつ歩いていた後、私が選んだのは「ポルトガルの道」。
世界一周の旅の途中にポルトガルのポルトに飛び、そこから海岸沿いのルートをずっと北上して、スペインへと国境を越えて、270㎞先のサンティアゴを目指して毎日歩く。その記録。
マガジン「380km歩き旅!ポルトガルの道」にまとめています。

長すぎる前置き

いつもより早く出発したおかげで、綺麗な朝焼けが見られた。
朝焼け、日の出前の朝バナナの味は格別である。

山越えが2つあるらしいが、そういう情報は、Buen Caminoのアプリを見て確認している。アプリで現在地やルート情報、距離、宿の情報などが見られるので、ガイドブックなどなくても大丈夫なくらいの情報量である。便利な世の中になったもんだ。
今日はCarreço(カレソ)という町のかなり評価の高そうな宿を予約してみたので、そこまで進む予定。

どんな宿かがわかりやすく表示されている
次の町までの距離が分かるので、その日のコンディションでどこまででやめるか決められる。
山2つ
道すがらのトイレやバルの情報も見やすい。


暑さにかなり弱い私は、朝の涼しい時間帯に距離を稼ぐことが必要で、山も出来れば涼しい時間帯に越えてしまいたいところ。サクサクと進んでいく。(今日は後半が盛りだくさんで書きたいことがたくさんあるので、余計にサクサク進む。)
途中、教会があったので、教会ある所にベンチありという法則に基づいて、朝ごはん休憩に入る。チーズとろりんは、山越え後のお楽しみにして、とりあえず、宿でもらったゆでたまごとアップルケーキをいただく。

がっしりしたヤコブ様
サンティアゴまであと208kmらしい。
痩せたヤコブ様
ちょっとがっしり体型に戻ったヤコブ様
まずは、ゆで卵を塩でいく

いよいよ久しぶりに海を離れて山のゾーンに入る。
私あるあるだが、しんどい行程に入ると写真をほとんど撮らない。
なので、山の中の写真はほぼない。あるのは、山の途中にあった、巡礼者のための無料休憩所ポイント。
寄付を募って、氷水で冷えたドリンクや温かい飲み物、フルーツやスイーツなどが提供されていた。ここでは、散々インドのクラブで聴いたマイリー・サイラスの「Flower」がBGMで懐かしくなった。長く旅をすると、その年、その時期のヒットソングがあちこちの国の街角でよく流れていて心に残る。多分私は今後Flowerを聴くたびにこの世界多分一周旅のいろんなシーンを思い出すのだと思う。

スイカをかじっていると、青いTシャツを着たイギリス人のデイヴに声をかけられた。「今日はどこまで歩くの?」「Carreç...これなんて読む町か分からない…」「カレソだよ」と話し始め、「カレソのどこに泊まるの?」「ここ」とアプリの画面を指さすと、「Best choice!僕も同じだよ。この宿は、ポルトガルの道にある宿の中で、最もクールな宿と言われている宿なんだよ」とデイヴが言う。
そうなんだ。イギリス人だったので、ついつい私の中のギャラガー兄弟が顔を出し、「ファッキン・クール?」と聞いたら「Exactly,ファッキン・クール!」と言って笑った。その後しばらくデイヴと色んな話をしながら一緒に歩いた。デイヴはいろんなカミーノのルートをこれまで歩いてきていて、カミーノを歩きに来るのが趣味になっているそう。彼の足元にも及ばないが、私も気持ちは同じだ。デイヴがとても優しくゆっくり分かりやすい英語を話してくれて、とても話しやすかった。聞くと、デイヴは7か国語を話せるらしく(何語かは覚えられなかった)、そんな彼でも日本語は難しくて話せないと言い、言語を操る天才は、簡単な英語を選んで分かりやすい文で話す天才なのかもしれないと思った。1時間ほど歩いて、「私はペースも遅いし、ゆっくり行くので、カレソの宿でまたね」と言って別れ、デイヴはさくさくと進んで消えていった。

ポルトガル
ピーチティーが美味しい!
そしてファーストステージバージョンのナタを食らう。
スイカを5月に食べられる幸せ。


どうにか昼前までに山を越えられて、町に戻ってきた。
ここで、しばらくずっと同じ人が私の少し前をゆっくり歩いていた。彼の名はMr.スヌーピー。右腕にスヌーピーのタトゥーが入っていて、バックパックの右側にスヌーピーのぬいぐるみが顔を出していた。彼と一緒にランチを食べたときに聞いたら、スヌーピーが好きらしく(そりゃそうだろう)、パパが巡礼の旅に連れて行くようにぬいぐるみをプレゼントしてくれたらしく、一緒に歩いているそう。顔は割といかつい感じなのになんてファンシーな青年なんだろうと感心してしまった。これからスヌーピーを見るたび、Mr.スヌーピーくんを思い出すかもしれない。それもいいなと思った。

Mr.スヌーピーくん

また海に戻ってきたが、地図によると、橋を渡った先の山を登って越えないといけないらしく、少し滅入ってしまう。綺麗な少し緑がかったここの海の色に励まされながら、何とか気合いを入れ直して進む。

あの山を越えないといけないなんて嘘だと思いたい。

山を越えて(山の写真がないことがしんどさを表している)、可愛い町を抜けていく。また教会があり、教会の前に広場があってベンチがあったので、よっしゃ、アレを食べよう!アレタイムに入ることにした。

チーズとろりんの蓋を丁寧にマスキングテープで密封している神経の細やかさ。

チーズとろりんタイム!
最高過ぎる。もう飲み物扱いにしていいかもしれない。
チーズとろりんの残りが少なくなってきた。なくなってしまうのが寂しすぎる。早く新しいものを買い足さないと!どこかスーパーマーケットを見つけないと!焦る気持ちをおさえながらまた進む、進む。

2個目のゆでたまごはマヨでいく!

暑くなってきて、疲れ果てて倒れ込むように、誰かの家の軒先のベンチで座ってうなだれていたら、上から何やら大声で怒鳴られた。「そんなところで座るな!」と注意されているのかなと思って、慌てて立ち上がると、そのおばちゃんと目が合って、2階からオレンジが降ってきた。

この時はマイケルジャクソンの「Beat it」を片耳イヤホンで聴いていた。

疲れた巡礼者に励ましのオレンジの差し入れだった。ポルトガルのおばちゃんの勢いと優しさに元気づけられて、さらに進む、進む。

宿自体も丘の上にあったため、ラストスパートがかなりしんどかった。
デイヴが待っていると思い、頑張って進んで、何とか最もクールな宿に到着。
受付にデイヴがいて、「ようこそ、最もクールな宿へ」と出迎えてくれた。

歩きながら「クール」という言葉の意味について考えていたが、よく分からなかった。しかし宿に入ってみて分かった。私は宿に、清潔さとか機能性とかそういうものをつい求めがちだったが、クールとはそういうことじゃないらしい。石造りで洞窟のような雰囲気になっていて、たくさんの部屋がつながっていた。レコードを聴ける部屋があったり、ゆっくり飲み物を飲んで読書するのに向いてそうな部屋があったり。ベッドは木でできた普通の山小屋のような2階建てベッドで、たくさん並んでいて、シャワーの数はベッド数に対して少ないと思ったが、全然どうでもいい。とにかくクールという言葉の意味と逆の温かみがあった。部屋の窓をふと見ると、白い馬がいた。まるで絵画のようである。庭に出てみると、プールがあり、テーブルセットがあり屋外で大人数で食べられるスペースがあった。
そこで、座って太陽を浴びながら瓶ビールを飲んでいた、日焼けした黒髪の女性と目が合った。
そして彼女が、瓶ビールを軽く上げて、私に笑顔でウインクをした。
まるで映画のようなシーンだった。
あのびっくりするほど好感度しかない女性は、一体誰なんだろう。可愛い笑顔で、見たこともない私に対してあんなにオープンな感じの笑顔を向けるなんて。あれこそがクールというものかもしれない。かっこいいし、絶対いい人なんだろうな。ああいう人になりたいよ。どうやったらあんな可愛い笑顔でかっこよく振る舞えるのか。
その女性のハイレベルな好印象さについて考えながら、シャワーを浴びた。

それが、この後、とても大切な友達になったメキシコ人のクリスティーナとの出会いだった。

FULL
デイヴはベッドを抜け出してこの奥のソファーで寝た。

シャワーと洗濯を済ませて庭に出る。
庭でビールを飲んでいたデイヴに呼ばれ、クリスティーナとドイツ人の5人グループに混ざることにした。ビールをご馳走になり、そのまま宴会ディナーに。
先程の好感度満点の女性クリスティーナが話しかけてくれる。実際しゃべってみても好印象しかない。
クリスティーナが「デイヴに声をかけられたの?」と聞かれ、そうだと答えると、笑って「やっぱりね。デイヴは可愛い女性を見つけて声をかけるプロなんだから。可愛い人にしか声をかけないのよ」と言う。ナンパな野郎にはどう見ても思えないデイヴ。
「デイヴは、シャイだから、私とあなたにしか自分から声をかけていないよ、今のところ。100%真実よ」と言ってクリスティーナが笑っていて、デイヴが「100%真実だね」と笑っていた。

晩ごはんは、外の店で注文して配達してもらう人は10€(1500円)の巡礼定食かピザ、冷凍のごはんなら6€(900円)という選択肢で、私はケチって6€のチンするおかずにし、他のメンバーは配達してもらうことになった。
6€の安い方の冷凍おかずのお肉も柔らかくて悪くはなかったが、隣で食べているクリスティーナのどでかい肉の塊焼きたてステーキ定食が完全に勝利だった。
デイヴはパンとさくらんぼだけだったので(この辺りの切り詰め方が、まさに巡礼慣れしていると思った)、わたしとデイヴはドイツ人のピザを分けてもらい楽しく宴会をした。

空から降ってきたオレンジ
冷凍900円ごはん
8人いると名前を覚えるのが大変。

ドイツ人のピーターがよく喋っていたが、何の話をしていたかは覚えていない。とにかくよく笑った。

宴会を終え、2段ベッドの上でみんなより一足早く寝る準備を終えて、耳栓をして寝ようとしていたら、何やら下界が騒がしい。
耳栓を外して見下ろして話を聞くと、どうやらクリスティーナのベッドの横にヘビがいるらしい。
イタリア人女性が、「ノーノーノー!」とヘビに怒って大騒ぎをしている。
クリスティーナが「のりまき!上の段でも安全じゃないわよ。ヘビは上にも登れるんだから」と脅してきたので、急いでシーツから出て、下界へ降りた。
クリスティーナが別室のデイヴを呼んできて、一緒にベッド脇のヘビを見に行ってびっくり。
ヌメっとしてそうで、とぐろを巻いている。
みんなでぎゃーぎゃー騒ぎはじめ、そんな中、派手なピンク一色のTシャツを着たイタリア人女性が私に急に自己紹介をし始めて、その名前が「マリア・アントニエッタ・アンドルファット」という長い名前で笑う。私に記憶させようと何回も二人でその名をリピートしたり、別の人が、ベッドサイドが臭うと言い出してサイドテーブルの下を覗くとヘビの死骸があってまた大騒ぎしたり、状況はかなりカオスとなった。
デイヴが、別の自宅へと帰って行った宿のオーナーのヒューゴにTELし、事態を説明し、30分後にヒューゴが戻って来て、ささっとヘビの死骸の方を捨て、とぐろを巻いている生きたヘビを庭に逃がした。
ヒューゴは、このヘビに毒はないこと、ヘビが寝室に出たのはこの宿始まって以来の出来事だと言って、できればGoogleのレビューには書かないでほしいし、ヘビのことを書いてもいいけど楽しかったことも書いてね、と言って帰って行った。口コミ重視の時代なので死活問題になるのかもしれないけど、自然に囲まれて馬とヤギと犬がいる宿なんだから、ヘビくらいいたっておかしくないと思う。ヘビ程度でここの良さは何も変わらない。

「クールって、ヘビのこと?」とデイヴに言って「Everything.ここで起きたこと全て、ファッキン・クールだったね。」と言いあって、やっと全員が安心して眠りについた。
私にしては珍しく夜更かしをした。とはいえ21時半。外はファッキン・クールな美しい色をしていた。

この日の宿での出会いや出来事は、ずっと忘れないクールな思い出。

デイヴとクリスティーナのどちらがオーナーにTELするか話し合っている。
クール!
21時半のクールな空。


本日の必需品↓

本日の最もクールな宿↓


明日はいよいよ国境を越えて
スペイン入りの予定!


ポルトガルの道3日目
EsposendeからCarreçoまで
50,000歩、30km、9時間半。
ポルトから91km進んで、
サンティアゴまで残り189km。

続く…


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のりまき
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