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島の”芋あんたい焼き"誕生ストーリー

大島大橋からほど近く、小松開作の住宅街の中にあるカフェ「わたの花」。

「芋あんたい焼き」を開発・商品化された店長の山中静子さんに、お話を伺いました。

きっかけは「周防大島の名産って、みかん以外に何があるの?」

看護師として医療介護の仕事を務めておられた静子さん。社交的で、前々から「いつかカフェをやってみたいな」と思われていたそうで、退職後、自宅の倉庫を改装して、カフェ「わたの花」をオープンされました。
地元の俳句サークルの拠点になったり、周防大島町認定の認知症カフェとして居場所や相談の場を地域に提供されたり、地域に開かれたカフェを目指して、様々な活動を展開されています。




しかし、初めての自営業、そしてコロナ禍。事業としてはなかなか苦しい数年が続いていたそうです。

そんな中、2022年、たまたま知人が関わっていたNPO島スクエアプラスの「島スクエアフォーラム」の受付手伝をされたときの事。
地域資源を活用した商品開発や起業についてのパネルディスカッションがあったそうです。質問タイムに、会場の他県からの参加者から上がった素朴な質問「周防大島の名産って、みかん以外に何があるんですか?」との声。
その一言が、静子さんの心に刺さったのです。

生まれも育ちも職場も周防大島、生粋の島っ子の静子さん。

周防大島は、移住者の方々が来て、起業するなど活躍されてて。もちろんうれしいんだけど、島生まれ、島育ちの私たちこそ、本当は島のことをよく知り、歴史や文化を次の世代に引き継いでいかなきゃいけないんじゃないかと思うの。


その後、「島スクエア」に受講生として参加、商品開発部のメンバーで、何を取り上げ、何を生み出すか。一から考えていったそうです。

未完成でも人に食べてもらう。アドバイスはとりあえず試す。疑問は探求する。

取り上げたのは、「さつまいも」。
かつては「周防大島といえば芋喰島(いもくいじま)」と本土側から揶揄されたくらい、さつまいもによって命を繋いでいたこともある周防大島。多くのさつまいもが栽培されていました。
「東和町誌」(合併前の周防大島町の一部、旧東和町の町の歴史を記した本。宮本常一、 岡本定著著1982)でその由来を調べたところによると、江戸後期に普及し、島の人口増加を支えていたということだったそうです。

気軽に食べてもらえる「たい焼き」の餡にしようと、試作を繰り返す日々。
地元の月一回のイベント「ふれあい市場」などで試食会をひらき、お客さんの反応を見ても、なんだかイマイチ。皮はパリッと、中はもっちりを目指すけど、なかなかそうはならない…
ある日の試食会のこと。「米粉じゃ…米粉を入れるのじゃ…」と、一人の方からアドバイスがありました。その方は以前、「金魚焼き」という名で、商品を作っていたそうです。当時の大切なレシピを提供くださり、静子さんも試食者も納得の皮ができあがったのです。

ー芋だけだとなんだか締まりがない。みかん入れたらどう?ー

という意見も取り入れ、試行錯誤の上、皮の生地に酢橙のピールを練りこみ、みかんの果肉(島の女性たちが冬に加工するみかん缶詰)を芋あんに載せて挟み込んだものが、現在販売されている「芋あんたい焼き」です。


青い海(?)に映える芋あんたい焼き

キッチンカーの導入

商品はできたけど、カフェで焼くだけではたくさんの人に食べてもらうことができない。キッチンカーがあれば、イベントなどでたくさんの人に知ってもらい、食べてもらうことができるのでは?でも、お金かかるよね…
そこで、一緒に商品開発に取り組んでいた仲間が提案したのが、山口県のやまぐち創業補助金の活用です。

自分で申請準備に取り掛かったものの、書類は煩雑で、近隣にキッチンカーの見積もりを頼めるところも見つからず、締め切りももうすぐ。
もう無理…今回はあきらめて、また今度チャンスがあったときにしよう…そう思って、島スクエアの講師の方々にもお伝えしたところ

「一人でやらなくていいのに!」
「いつ『手伝って』って言ってくれるか待ってたんよ!!」

と、早速申請書作成をサポートしてくださったそうです。
キッチンカーも、カフェのお客さんが、「広島なら心当たりがあるよ」と、すぐに紹介してくださり、見積もりもゲット。

こうして締め切りにも無事間に合い、山口市でのヒアリングも無事にクリア。採択が決定したそうです!!


地域のイベントや、集落からも声がかかる人気のキッチンカーに

2月から稼働し始めた鯛焼きキッチンカーは、「ふれあい市場」のほか、各種の桜が咲き誇る「花の咲く夕日の里づくりの会」から週末の出店を依頼されたり、うわさを聞き付けたとある集落からは、花見をするから出店してくれないかとのお声も…!

焼けるまでの時間も会話がはずみます

数が少ないとしても、できるだけ出店したいの。喜んでもらえるなら…!

という静子さんですが、出店を依頼した方々も、事前告知に力を入れたり、田舎の口コミ力を最大限に発揮して、「最低〇個は確実よ!」と、互いに楽しめる時間とするために、頑張っておられます。

カフェに来るお客さんを待つのもいいけど、青空の下、イベントを楽しんでいる方たちを観ながら鯛焼きを焼くのが楽しい

と、静子さんもキッチンカーでの出店を楽しんでおられます。



アイデアの実現に向けて動くからこそ、周りが助けてくれる

試食のときには正直な感想を伝え、最後には「おいしい」と納得してくれた人たち。
レシピ改良に自分の培ったレシピを提供してくださった方や、アドバイスを下さった昔の仕事仲間の管理栄養士さん。
不慣れな申請手続きをサポートくださった島スクエアの講師陣。

「起業講座を実施しても、なかなか起業までたどり着く参加者は多くないから、本当にうれしい」

という、講師からの言葉もあったそうです。

初めての分野にもひるまず、完成していない段階から公表することで様々なアドバイスや助言を受け入れて試し、改良を重ねてこられた静子さんだからこそ、周囲の方々がサポートをされたのだと確信しています。

思い立ったらそこがスタート地点。年齢は関係ない。

次の目標は、この鯛焼きを、周防大島町のふるさと納税返礼品に出品することだといいます。
島に所縁のある方々に、この鯛焼きを知ってもらいたい。食べてもらいたい。

既に70歳を超えておられる静子さん(全然みえない!!)ですが、まだまだこれからやりたいことがあって、毎日楽しいといいます。

取材にお邪魔した平日昼下がり、入れ代わり立ち代わり、ご近所さんや、島を離れ年に数回実家の手入れに来るというかつての同級生、町外のなじみ客など、様々な方がカフェわたの花に集っておられました。
静子さんとの軽快な会話が、お店を後にするときにはなんだかスッキリすがすがしい表情になったお客様を再訪に導いておられるのだろうと感じました。

島生まれ、島育ちの私たちこそ、次の世代に伝えるべきものがあるんじゃないかと考えたの。それをしっかり伝えていきたい。

高齢者の多い周防大島町ですが、どこかあっけらかんとして悲壮感がない。
「危機感が足りない!」と言われればそうかもしれませんが、引退のない、生涯現役の島。
私の友達も、親の世代を超える方がたくさんいらっしゃいます(お相手は、子や孫のように思ってくださっているのかもしれませんが)。
先輩方が培ってこられた人格と精神力とネットワークには敵いませんが、私も負けないように、島での暮らしを愉しんでいきたいと思います。

〇お店情報(R6.3.14現在)

喫茶・軽食 Cafe わたの花
OPEN 月~木 10:00~17:00
〒742-2105 周防大島町小松開作148-6
080-5236-1107


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