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食わず嫌い

年齢とともに食べられる料理は増える。私の場合、おでんもそうだった。

幼いころ、おでんの昆布巻きを食べ、その味の濃さに気持ち悪くなり、それから、食べられなくなっていた。家の夕食がおでんの時は、1人だけハムエッグを作ってもらい、それを食べていた。

大学に入学して1か月は、おばの家に居候していた。下宿先を探したものの、探し始めが遅かったこともあって、大学の近所に程よいアパートを借りることが出来なかったためだ。

毎日の夕飯はおばが用意してくれていた。ある日、大学から帰ると、おばが、こう言った。

「今日の夕飯はおでんやで」

においで予想はついた。居候の身で、好き嫌いなんて言ってはいけない、と思いつつ、おでんを食べると昔の気持ち悪かった味を思い出す。なので、思い切って、言ってみた。

「おばちゃん、私、おでん、食べられんから、納豆とかもらって良い?」

するとおばちゃんは、それには何も答えず、私の前におでんのお皿を差し出した。そしてこう言った。
「おいしいねん」
お皿の上には大根、卵、糸こんにゃくなどがのせられていて、昆布巻きは入っていなかった。出してくれるものに文句は言っていけないと言い聞かせつつ、恐る恐る大根を食べた。

噛むと大根からしみ出した出汁の味が、じゅわーっと口の中に広がった。そのおいしかったことと言ったら、目が覚めるようだった。

これまでおでんが嫌いだったというのは、何だったんだろうか?

そこからおでんがあれば進んで食べるくらい、好きな食べ物の1つにおでんが加わった。
おばには感謝しかない。

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