コスタリカ戦の敗戦はやむなし。日本がベスト8に行くためには必要な“良薬”だ

 「ターンオーバーは全く後悔していません」

 「結果がダメだったから、やったことがダメだと第3者の方からは見られるかもしれませんが、ドイツ戦、今日のコスタリカ戦と非常にインテンシティの高い戦いの中、もう一度スペインと激しく厳しいインテンシティの高い戦いをすることになります。その中で、我々が勝つ確率を上げられると考えて選択したことです。結果的にダメだったが、トライしたことは私自身、日本が勝つために必要なことだったと思ってやりました。ーー」

 試合後の会見で、初戦からスタメンを5人入れ替えたことについて問われた森保監督は、上記のような言葉で自身の采配を肯定する台詞を述べた。
 
 コスタリカ戦。0-1で敗戦を喫したこの試合は、途中まで日本が負けそうな匂いは正直ほぼしなかった。初戦のドイツ戦とはうってかわり、試合は終始日本のペースで進んでいた。

 はっきり言って、この試合のコスタリカに、チャンスらしいチャンスはほとんどなかった。唯一のチャンスは、決勝点となった後半36分のケイセル・フレールのシュートのみ。逆に言えば、このシュート以外、日本にピンチらしいピンチは1度もなかった。繰り返すが、コスタリカに先制を許すまで、日本が負けそうな気配はほとんどなかった。「最低でも引き分けたかった」とは遠藤航のコメント。遠藤に限らず、この試合を見た日本人の多くはおそらくそう思っているばずだ。

 この試合を見ていて思わず想起したのは、日本が弱小チームを招いてよく行なわれるホームで親善試合だ。W杯予選でアジアの格下と戦うときのホーム戦と言い換えてもいい。これまでW杯の日本戦を何試合も見てきたが、日本がこれほどの余裕を持って戦う試合を見た記憶はない。敗戦だけはどうしても避けたかったのかはわからないが、コスタリカはそれくらい最初から後ろに引いてきた。5バックの構えを崩さず、後半の半ばくらいまで、積極的に前に出てくることはなかった。

 このコスタリカの様子を見て、日本の選手たちはどう思ったのだろうか。開始10分後、少なくとも20分後には、恐れるに足らぬと判断したのではないか。試合を見ているこちら側も、その想像以上に守備的な姿勢には驚いた。いつ日本の得点が生まれてもおかしくない。少なくとも前半はそう思いながら眺めていた。試合に漂う緊張感は、ドイツ戦とは比べものにならないくらい低かった。

 失点の発端となった吉田麻也の緩いクリアが、そうした緊迫感の低い日本のムードを象徴していた。初戦で強敵ドイツ戦に勝利したこと、そして2戦目を自分達のペースで試合を進めていたことで、多くの日本人が「このままいけば大丈夫」だと、どこか安心してしまっていた。ドイツ戦以降の4日間、多くのメディアをはじめ、日本列島全体が浮かれっぱなしだった。もしドイツ戦やスペイン戦であれば、おそらく吉田はもっと遠くにボールを飛ばしていた。僕はそう思う。コスタリカを舐めていたとは言わないが、主将でもある吉田の甘いクリアは、いまの日本全体の油断の表れに見えた。

 失点はあくまでも日本側のミスによるもの。だが一方の攻撃に関しても、日本は決してよかったとは言えなかった。終始試合を押していた割には、決定的なチャンスは少なかった。途中交代で入った三笘薫が2度ほど左サイドを破ったが、得点の匂いを感じたのはせいぜいこれくらい。失点は確かにアンラッキー的な要素が大きいが、それは日本が攻めあぐねたことに起因していたと筆者は見る。もう少し有効な攻撃ができていれば、少なくとも引き分けることは十分可能だった。もっと言えば、楽に勝負を決めることもできたはずだ。

 何がよくなかったかと言えば、ずばりサイド攻撃になる。

 日本は前半の途中から、布陣を初戦のドイツ戦と同じ3-4-2-1的な3バックに変更した。ドイツ戦ではこの布陣の変更プラス素早い選手交代によって相手を混乱させることに成功したが、このコスタリカ戦では率直に言ってサッパリだった。遅攻気味の試合展開にマッチしていなかったこともあるが、なにより一番の問題は、サイドに選手が1人しかいないことだ。

 従来の4-2-3-1であれば、サイドバックとサイドハーフ、両サイドにそれぞれ常時2人が構えている。この2人による縦関係のコンビネーションプレイで、深みのあるサイド攻撃が可能になる。だがこの森保式3バックでは、両サイドには3-4-2-1の「4」のウイングバック1人しかいない。コスタリカ戦の前半で言えば、左の相馬勇紀と、右の山根視来。後半で言えば左が三笘で右が相馬になるが、サイド攻撃を彼らによる単独突破に頼るしかないのだ。後半に投入された三笘は1人でも相手DFを抜くことができるが、他の選手にその力はない。しかも相手のコスタリカの布陣は5-4-1で、その「5」と「4」の両サイド合わせて、目の前に常に2人が構えていた。片や各サイドにほぼ1人しかいない日本は、常時2人が構えている相手の両サイド深い位置まで侵入することができなかった。真ん中に引き込まれては奪われる、可能性の低い攻撃を続けることになった。チャンスをほとんど作れなかった理由になる。

 後半、三笘が個人技でサイドを深く抉るシーンがあっだが、ここにもう一人選手が絡めば、そのチャンスはもっと決定的なものになっていたと僕は思う。あるいは三笘をサポートする選手が近くにいれば、その突破の確率はもっと上がるはずなのだ。三笘、そして右サイドの伊東純也など、ドリブル得意な彼らがその本領を発揮しにくいところに、この森保式3バックの弱みがある。この布陣頼みでは、次のスペイン戦も危うい。従来の4-2-3-1、どうしても布陣を変えたいのであれば4-3-3で行くべきだと、声を大にして言いたくなる。

 この組で最弱のチームと目されていたコスタリカ戦の敗戦(0-1)は、確かに痛い。サッカーの内容もよくなかった。いまこの瞬間、おそらく多くの日本人が落胆していると思われる。だが、そうしたマイナス要素を差し引いても、この試合には褒められるべき点があった。特筆すべき采配と言ってもいい。それは冒頭で記したように、初戦からスタメンを大きく変更したことにある。

 初戦のドイツ戦で、日本は交代選手を含め16人の選手をピッチに送り出していた。そしてこの日は初戦に出場しなかった山根、相馬、守田英正、上田綺世、伊藤洋輝の5人が初めてピッチを踏んだ。つまり、ドイツ戦、コスタリカ戦を通して起用された選手は21人。フィールドプレーヤーに限れば、23人中20人だ。出場していない選手は、2試合を消化した段階ですでに谷口彰悟、柴崎岳、町野修斗の3人しかいない。

 初戦でドイツに勝利したことで、日本はこのコスタリカ戦に勝利すれば、決勝トーナメント進出に大きく前進していた。ドイツ戦の勢いのまま、計算できるメンバーで挑むことはできたはずだ。従来の日本人監督、これまでの森保監督であれば、おそらく手堅いメンバーでスタメンを組んでいたと思う。だが、森保監督はそれをしなかった。怪我人が何人か出たこともあるが、それを抜きにしても、スタメンを5人も変えることには勇気がいる。少なからず勝ち星を取りこぼすリスクが生じる。そして実際、次も「いただき」と思っていたコスタリカにまさかの敗戦を喫してしまった。歓喜から一転、3戦目に負ければ敗退が決まる窮地に立たされることになった。

 だが、日本の目標であるベスト8には、選手を有効に使い回さない限り辿り着くことはできない。中3日で続く試合を同じメンバーで戦い抜くことは、体力的に不可能なのだ。前回のロシア大会や昨年の東京五輪でも、日本はうまく選手をやりくりすることができなかった。そのやり方ではW杯ベスト16、オリンピックでは4位が精一杯。いかに選手の疲労を分散させ、先の戦いへの可能性を残すか。今回こそはという思いでいたこちらには、この2戦目のスタメンを見た瞬間、コスタリカ戦の結果はどうあれ、少なくとも3戦目以降の期待値は大きく膨らむことになった。

 試合には敗れた。内容も決して良くなかった。だが、スタメンを大きく変え、さらには交代枠を早めに使い切ったことで、この2試合で多くの選手を使うことができた。さらには布陣も2種類披露している。余力を残しながら、森保ジャパンは3戦目以降を戦うことができる。

 日本対コスタリカ戦の後に行われた注目のスペイン対ドイツ戦は、1-1の引き分けに終わった。決勝戦でもおかしくない、今大会ダントツでハイレベルな試合とは、試合を見た率直な感想だ。前半は主にスペインペースで、後半にドイツがやや盛り返すという試合展開。内容ではスペインの方が一歩リードといった感じだったが、ドイツも決して悪くなかった。このドイツに日本はよく勝てたなと今さらながら思うが、そんなドイツよりもスペインはさらにもう少し強いとは僕の見立てになる。ドイツ戦で突破を決めることができなかったスペインは、日本相手にもおそらく本気で向かってくると予想される。初戦のドイツ戦以上に攻め込まれる可能性大。最悪の場合ボコボコにされてしまう可能性もあるが、選手の使い回しという点においては、日本はそんなスペインやドイツに大きく勝っている。他のチームを全て調べたわけではないが、2試合で21人も使ったチームはおそらくほとんどない。この大一番のスペイン戦を、日本は余力をたっぷりと残した状態で迎えることができた。前回大会よりもチームとして成長した、成績には残らない一歩だと言えるかもしれない。

 「ターンオーバーは全く後悔していません」。「我々が勝つ確率を上げられると考えて選択したことです」。試合後の会見でそう言い切った森保監督の選手のローテーションには、筆者も賛同する。スペインはハッキリ言って滅茶苦茶強い。ブラジル、フランスと並ぶ、今大会の優勝候補の一角だ。日本が勝つ確率は、たぶんドイツ戦以下。甘く見ても10%もない。だが、余力は他のどのチームよりもある。戦い方次第では、スペインを慌てさせることは十分できると見る。

 そのためには、この試合を最高の陣容で挑む必要がある。これまでの2試合を見れば、誰がどの程度やれるのか、出場した選手についてある程度検討はつくはずだ。アタッカーに関して言えば、三笘と伊東をスタメンから使うことは必須だと思う。この両者を高い位置に両ウイングとして置けば、それだけでスペインに脅威を与えることができる。だがそのためには、彼らを下支えするサイドバックの存在が欠かせない。布陣はこの2試合で使った3バック(3-4-2-1)ではなく、4-2-3-1(あるいは4-3-3)で行くべし。またサイドバックついでに言えば、左の長友佑都にはもはや活躍を期待することは難しい。相手が引き気味だったコスタリカ戦でさえ、もはや満足に攻め上がることができなかった。ハーフタイムでベンチに下げられたことがその証だ。長友を外し、ここは左利きの伊藤を使った方がいい。そしてついでに言えば、センターバックの吉田のプレーにも僕は不安を覚える。いまの吉田に、スペイン相手にキャプテンらしい余裕のある落ち着いたプレーがはたしてできるのか。コスタリカ戦の致命的なクリアミスを見せられると、かなり心配になる。怪我から復帰すれば冨安健洋、もしくは谷口でも構わない。キャプテンだからといって、出ずっぱりにさせる必要はない。また、コスタリカ戦ではセンターフォワードが全く活躍できなかった。先発した上田、後半頭から入った浅野拓磨ともに、力不足を露呈させた。このセンターフォワードに思い切って鎌田大地を置いてみても面白い。森保監督の選択に注目したい。
 
 コスタリカ戦の敗戦は、ある程度はしょうがないと僕は思う。ローテーションを敢行すればこういうこともあると、割り切るしかない。良薬は口に苦しと言うが、この敗戦を薬に日本がもうワンランク上のレベルに到達する方が、長い目で見れば日本のサッカー界にとってはプラスになる。それに、まだ日本は終わってはいない。スペイン戦に勝利すれば、自力で突破を決めることができる。そのためにはもっと内容のよいサッカーをする必要がある。

 ここまでの戦い方では、おそらくスペインには通用しない。はたして2度目のまさかは起こるのか。大一番、スペイン戦に目を凝らしたい。


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