イングランドは優勝候補なのか。アメリカ戦ドローでB組は大混戦に

 グループステージ2戦目の戦いが始まった、カタールW杯6日目。今大会は面白い試合が多いとは率直な感想になるが、この日行われた試合も例外ではなかった。初戦よりも緊張感が増しているというか、今後もまだまだ好試合が続出しそうな匂いを感じさせるには十分な1日だった。

 まず魅せたのはイランだ。初戦ではイングランド相手に2-6で大敗を喫したにもかかわらず、そうした苦しいムードを感じさせない勢いで、ウェールズに襲いかかった。

 この試合を見ていてまず目についたのは、会場を埋めたイランサポーターの多さになる。イランにとって開催国のカタールは、ペルシャ湾を挟んだ向かい側の国。いわば隣国だ。サウジアラビアもそうだったが、今回のW杯で中東勢の活躍が目立つのは、ほぼホームのような雰囲気の中で試合ができることと深く関わっている(開催国のカタールは早くも敗退が決まったが)。日本や韓国などが中東勢とのアウェー戦で苦戦するのと同じ理屈だ。決して強そうには見えないサウジアラビアがアルゼンチンに逆転勝ちした理由、イランがウェールズ相手に勝利できた大きな要因だと考える。地元のサポーターの声援に勇気づけられること、馴染みのある場所で試合ができることが、今大会彼らに有利に働いていることは間違いない。

 とはいえ、イランは決して運良く勝ったわけでは全くない。試合の内容を見れば、その勝利は必然と言ってもいい。攻撃的な姿勢やチャンスの数でイランはウェールズを大きく上回っていた。

 イランが先制ゴールを奪ったのは、9分間に及んだ後半アディショナルタイムの、その8分が過ぎようとした後半53分。ウェールズのクリアボールを、イランのDFルーズベー・チェシュミがペナルティエリア外から突き刺したミドルシュートだった。その3分後には、同点を目指して攻勢に出たウェールズの隙をついて、追加点をゲット。2-0で勝負を決めた。

 繰り返すが、試合を通して優勢だったのはイランの方だ。ボール支配率ではウェールズの方が上回ったが、後半7分のサルダル・アズムンのシュート、その直後に放ったアリ・ゴリザデーのシュートは、いずれもポストを直撃する極めて惜しいシーンだった。後半29分にサイード・エザトラヒが放ったシュートも相手GKウェイン・ヘネシーの好セーブに阻まれたが、これも決まっていてもおかしくなかった。決定的なチャンスの数で、イランはウェールズを確実に上回っていた。後半41分にはウェールズのGKヘネシーが退場。数的有利になった後に得点が生まれたわけだが、それらは全て、イランが最後まで攻撃的な姿勢を貫いたことに起因したとは僕の見立てだ。初戦を4点差で落としたチームとは思えない、そんな勇敢な戦いぶりをイランは見せた。

 ウェールズの敗因は、あえていえばガレス・ベイルだろうか。主将でもあり、このチームが誇る唯一の世界的選手ながら、この試合の出来は正直サッパリだった。前節のアメリカ戦でも、得点を決めたPK以外のシーンで大きく活躍したかといえば、そうでもなかった。このイラン戦で言えば、後半23分までプレーしたイランFWアズムンの方が、同じアタッカーとしては何倍も怖い存在に見えた。

 ウェールズの3戦目の相手は、同じ英国のイングランド。この日イランに0-2で敗れたウェールズがこの組を自力で突破するためには、イングランド相手に4点差以上で勝つ必要がある。かなり厳しい条件だが、同時刻に行なわれるイラン対アメリカ戦がもし引き分けに終われば、突破のハードルは単なる勝利だけに下がる。それでも、ライバルでもあるイングランドに絶対に勝たなければならないことに変わりはない。だがそのためには、ウェールズはベイルに活躍してもらわないと困るわけだ。ベイルの出来も含め、イングランド戦にはとくと目を凝らしたい。

 そんなイングランドは、アメリカを相手にスコアレスドローに終わった。試合の内容はほぼ互角だったので、引き分けは妥当な結果だったと言えるだろう。強国イングランドを相手に引けを取らなかった、アメリカの健闘が目立った試合。ひと言でいえばそうなる。アメリカの背番号10番、チェルシーでも10番を背負うFWクリスティアン・プリシッチがボールを持つたびに、アメリカは勢いづいた。この選手が、イングランドにとっては常に脅威になっていた。もしプリシッチがいなければ、イングランドが順当に勝利していたかもしれない。

 だが、この試合が引き分けに終わった理由は、イングランド側に潜んでいたことも事実だった。

 後半の半分を過ぎた頃から、イングランドは意図的にペースを落とした。前からボールを追わなくなった。何としてでも勝ち点3を獲得しようとしているようには見えなかった。引き分けでもオッケー。終盤はそうしたムードでプレーしていた。攻勢に出でいた途中までの流れと比べれば、その違いはよくわかる。ゴールを許したくないために、時間を使いながら、静かに戦ったという印象だ。

 一方のアメリカは終始引かず、得点を狙うためによく攻めていった。もしイングランドがラッシュを掛けて、決勝ゴールを狙えば、試合は斬るか斬られるかの撃ち合いになったものとこちらは想像する。だがその結果、アメリカに敗れれば、グループステージ突破にやや危ないムードが漂うことになる。初戦で大勝しているイングランドは、この試合を引き分ければ勝ち点は4。しかも得失点差は+4もある。アメリカに引き分けても、ウェールズに4点差で敗れない限り突破はできる。イラン対ウェールズ戦の結果を受けて、2戦目は引き分けでもよしと判断したのだろう。終盤、ほとんど攻めようとしないイングランドにブーイングが起きるのは、僕には自然な現象に見えた。

 イングランドがアメリカと引き分けたことで、このB組は大混戦になった。最終節のイラン対アメリカ戦では、勝った方が自力での突破が可能だ。逆に言えば、このどちらかは確実に落ちる。イングランド対ウェールズの英国ダービーも、W杯で見るには興味深い試合だ。最終節ではどちらの試合を選ぶ(視聴する)か、多くのファンにとっては嬉しくも悩ましい問題だと思う。

 そんなB組とは異なり、A組は早くも敗退国が決まった。開催国のカタールは、特に見せ場もなく、3戦目を待たずしての脱落が決定。不名誉な記録を作る結果となった。だが試合を見れば、その結果に特段驚きはない。彼らのレベルがこの大会を戦うものに見合っていないことは、すでに初戦の内容からも見えていた。あれだけ後ろに引いていては、よいサッカーができるはずもない。勝てるものも勝てなくなる。近いうちに日本がアジア予選で戦うときには、もっとよいサッカーに変身していることを期待したい。

 そんなカタールの敗退が決定したA組だが、グループ突破を決めたチームはまだない。勝てば決勝トーナメント進出を決めることができたオランダは、南米のエクアドルに1-1で引き分け。内容的にも不安の残る姿を曝け出してしまった。

 オランダが中3日だったのに対し、開幕戦を戦ったエクアドルは中4日。コンディションではエクアドルの方が上回っていた。その動きはキレていて、こちらの予想以上のサッカーをエクアドルが披露したことは確かだが、それ以上に触れたいのは、オランダの不甲斐なさだ。格下のエクアドル相手にこれでもかとパンチを浴び続けるその姿は、驚きよりも落胆の方が大きかった。

 なぜオランダは5バックになりやすい3バックで戦うのか。最大の疑問はここになる。国内リーグのアヤックスなどが使用している、オランダ伝統の4-3-3をなぜ使わないのか。オランダはこちらの方が攻撃的でよいサッカーができると考えるのは僕だけだろうか。後ろに人が多ければ、当然、前方の人員は減る。エクアドル戦がまさにそれだ。後半開始から投入されたオランダの10番、メンフィス・デパイが全く活躍できなかった理由も、この守備的な姿勢に尽きる。前方に人が少なければ、周りからサポートを得ることはできない。FWは孤立する。よほどよい形でボールを受けない限り、チャンスが生まれるどころか、シュートを打つことさえ難しくなる。この試合でオランダのシュートが2本に終わった理由だ。オランダのパンチがヒットしたのは、先制点となったコーディ・ガクポの一発のみ。それ以外、有効打はほとんどなかった。結果は1-1の引き分けだが、ボクシングに例えれば大差の判定負けだ。オランダからみればある意味ラッキーな結果だったと言えるだろう。

 オランダの3戦目の相手は、すでに敗退が決まった開催国のカタール。引き分け以上でグループステージ突破が決まる。A組に入ったことに加え、この対戦順にも、オランダには運を感じる。カタールに敗れることはないと思うが、このエクアドル戦を見せられると、その先行きに不安を覚えずにはいられない。決勝トーナメント以降の戦いが危なく見えてしまう。

 もしオランダが首位で突破すれば、決勝トーナメント1回戦の相手はB組の2位チーム。確率的に高いのはイランかアメリカだ。たがここまでの2戦を見る限り、イランとアメリカはそれなりに強い。オランダが確実に勝てる相手には見えてこない。いまからオランダが心配になってくるが、ついでに言えば、僕はB組のイングランドも、余計なお世話だが少し心配だ。その理由は、アメリカ戦での選手起用法にある。

 イングランドは2戦目のアメリカ戦に、初戦のイラン戦と同じ11人をスタメンに送り込んだ。大勝した初戦から、先発メンバーを1人も変えなかった。ここに僕は疑問を覚える。さらに言えば、アメリカ戦では選手交代を3人しか行なわなかった。最大5人の交代枠を、2つも余らせた状況で試合を終えた。0-0で苦戦していたにもかかわらず、だ。

 イングランドは2試合を終えた段階で、登録メンバー全26人中17人しか使っていない。少ないと言わざるを得ない。このままいけば、トーナメントの終盤で息切れする。選択肢の少ないなかで、緊迫した状況を迎えることになる。イングランドのガレス・サウスゲート監督は昨年行なわれたEURO2020でも、選手をうまく使い回すことができなかった。優勝を逃した大きな要因だと僕は思うが、ここまでの2試合を見る限り、その選手起用法が改善されている様子はない。少し前の森保監督的と言えばわかりやすいか。優勝を目指すイングランドにとっては、このサウスゲート監督の選手起用法が足枷になるのではないかと、思わず懐疑的な目を向けたくなる。イングランドの心配は、選手ではなく監督。いまのところはそう言っておきたい。

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