短編小説「言霊」
今日はない。絶対にないはずだ。
なぜなら昨日はどこでも
何もそれらしきことは呟いていない。
細心の注意をはらい
飼い猫が鳴かいないという内容の記事にしたのだから・・・
それはnoteでもXでも同様の内容をあげた。
だから今日はない。絶対にないはずだ!
そう呟きながら里沙はカーテンを開けた。
空は晴れ渡っていた
近頃乱高下する気温に体が悲鳴を上げていたが
きょうは昨日の朝より暖かくホッとした
いつものように30坪ほどの築山をみた。
真ん中の石には朝陽が真面に当たり、眩しくはっきりとは見えなかった。
里沙の家の庭は
亡き父がバブルの頃、田を一つ潰して建てたので
敷地面積がやけに広く
家の坪数の3倍くらいの土地が余ってしまった。
それが自分が死んだあとに
相続税として降りかかり、
家を潰すほどの打撃になるとも知らず
庭師の言うままに作った築山でである。
この家と残った1枚の田の相続税を払うために
田をすべてなくしてしまったのだ。
長い廊下をすべてガラスのサッシにし
祖母がいつも座敷から
この庭を目を細めて眺めていたことを
里沙はことあるごとに思い出した。
父も、祖母も何も知らず逝ったのである
それはそれで良かったのかもしれない。
墓じまいも、土地を売った時に
残ったお金ですればいいと手を付けず残してある。
その築山は真ん中に大きなヤマモモの木があり
ヤマモモには赤い実がなり
鳥たちが集まってくる
その横に紅葉の木がある
新緑も、5月の薄い緑も 雨にぬれてた葉も
色が変わっても 裸木になっても
そのときどきに楽しめる木だ
もみじの横には金木犀が植わっていた
金木犀は秋に花を咲かせ、良い香りが漂う
ヤマモモの根元にはつつじや椿の着が植えられ
その下にはツワブキが置かれ
その年最後の醒めるような黄色い花を咲かせる
その前に松が石と交互に三本植わっている
大きい花崗岩の石が六個、岩と言ってもいいくらいの大きさだ
1個だけ上側が平らなものがあり、
その岩はちょうど築山の真ん中に位置していた
今年の夏には外猫のレイニーの休み場になっていた
2が月ほど前からだ
わたしがSNSに何かが欲しいと投稿をすると
その平らな岩の上に
その翌日奇麗に包装された贈り物が届くようになった
それには熨斗紙に巻かれてあり「献上品」と書かれてあった。
例をあげてみる。
その本が読んでみたいと呟けば
次の日にはその本ばかりか
その作家の全集が置かれていたことがあった
それも花柄の高級そうな和紙に包み
熨斗紙には「献上品」と達者な筆文字で書かれてあった
夫の隆志が、里沙に捨てらえるのが怖くなって
こっそり準備したのだろうと思った。
その本についてはずっと欲しい欲しいと言っていたので
ようやく自分の立場の危うさに気がついたのだと
その日は悦に入って全集を大切に本棚に収めた。
が、猫がいなくなってさみいなあと呟いた時は
不思議なほど
次々猫が来るようになり
とうとう夏には
あの岩の上でシャムネコのレイニーが休むようになったのだ。
これについては
夫にはどうすることもできないはずだと思ったけれど
まあ偶然が重なっただけだろうと
そこまで深刻には考えていなかった。
またある日
猫を飼うようになったと浮かれて写真など上げれば
翌朝には
ねこじゃらしやら
猫のエサやら
可愛い首輪やら
山のように「献上品」の熨斗紙の貼った箱が置いてあった
それらにも美しい筆文字だ。
まるで猫の尻尾で書いたような柔らかさだ。
自分はただの愛媛の田舎に住む高齢者だ
わたしが2つほどのSNSで
なにか呟いたとしても
何かが起こる訳がない
影響の少ない投稿しかしないタイプの人間だ
文章も当たり障りのないものだ
だから誰かが、その呟きに反応しても
何か変わったことなどが起こるはずもない
起こる方がおかしいのである
大谷さんや藤井さんや羽生さんじゃあるまいし
それでもなんだか少し怖くなり
里沙は最近投稿する前に
何かが欲しいような言葉はないかと何度も確しかめ、
どんどん神経をすり減らすようになっていた
昨日までの寒さは緩み
眩いほどの太陽が光っていつもの石の上が光って見えなかった
しばらくして太陽が雲に隠れると
その上に30センチほどの銀色の紙に包まれた箱があるのに気がついた
里沙はあまりの驚きに「ヒャーー」っと声をあげてしまった
飼い猫のメイがその声に反応して
部屋の隅の方で固まってしまった
声の出ないこの子はこうして隅で固まってしまうのだ
猫は丸くなるものだが、そいう姿をまだ見たことがない
里沙は急いで築山の岩の上まで行った
こわごわその銀色の包みの箱をみると
やはり「献上品」と書かれた熨斗紙が被せてあった
辺りをキョロキョロ確かめながら
その包みを家にもって帰った
もし爆発物とか白い粉だったらどうしよう?
そう思う反面
何が出てくるのだろ?という期待もあり
両方で里沙の指先が震える
それでも思い切って開くと
そこにがブルーレイが6本入っていた
題名は遠い昔に里沙が書いた小説が表題のだった。
急いでそれらを再生機に入れ、内容を確かめてみた
それらはすべて男女がラブホテルに入る場面だった
それぞれの設定通りにラブホに行くのである
そういえば、どの小説にも1ケ所はそういう場面があった。
たぶん不倫の話が好きなのだろう
ないものねだりである
そこで思いだした
急に思い出した!
最近浮かれていて
昨日はふたつ記事をあげたことを忘れていた
もうひとつの記事の中で
確かに里沙は口走っていた
俳句が歌になることは
小説が映画になることくらい嬉しいことだと
なんと浅はかなことをしたのだろうと
その時になって悔やんだが後の祭りであった
美沙は怖くなり
ブルーレイは切り刻み
その日からSNSは開かなことにした
これがなくても
わたしにはいっぱいやることがある
庭や野菜の手入れ
読書やプライムビデオ
三食のご飯に掃除洗濯
たまには旅行にもいきたい
そうだ。途中だった百名城の旅に行こう
いや、40年ぶりにディズニーランドにも行きたい
そう思ったとき松山の妹からの
ライン電話がなった
「なに?わたしいそがしいのよ!」
と、言うと
「あのね、1月の末にゆかりと3人ディズニーランドにいこうよ」
「え!今なって行った?」
「前からいってたやろ、もう1回だけディズニーランドに行きたいって
お正月の時も酔っぱらって叫びよったのに忘れたん!」
「ゆかりがね。おばちゃんにプレゼントしたいって言ってるのよ」
そこまで聞いて
里沙は気分が悪くなり、スマホを手から落とした。
姉ちゃんどうしたん?と言う妹の声が
何度も部屋に響いた
里沙は耳を塞ぎメイと一緒に部屋の隅で
固まってしまった
見出しの絵はカクカクさんのプレゼントを使わせていただきました
どうもありがとうございます
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