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TOKYO METABOLIZING

2010年に開催されたヴェネツィアビエンナーレ国際建築展の日本館公式カタログを読んだ。毎回日本館では有名建築家が一人キュレーターとして選出され、その時の日本建築界からテーマを見つけ出し展示を行なっている。

さて、TOKYO METABOLIZINGについて話す前に、建築界におけるメタボリズムとは何かを説明しておこう。ここでいうメタボリズムは1959年頃に黒川紀章や菊竹清訓が中心として展開された建築運動である。メタボリズムという単語の意味は新陳代謝であり、これを建築に当てはめてみたのがメタボリズムだ。生物は細胞を取り替えることで生きている。聞いたところによると、3ヶ月で人間の細胞は入れ替わっているらしい。この入れ替わりの速度は部位によって異なり、生物はパーツを取り替えながら総体として生きていると解釈できる。建築を考えてみよう。住宅といえども様々なパーツからできている。水回りや内装材などは2,30年程度で古くなってしまうが、構造体自体は上手く作れば100年、あるいはそれ以上もつ。だが一部のパーツが古くなってしまうと建物は建て替えられてしまう。高度経済成長期の建築家たちは建物のパーツを取り替えやすいようにしてしまえば、建物は生命のように、環境に適応し自らを成長させながら生きていけるのではないかという考えに至った。これがメタボリズムである。一つ例を挙げてみよう。

マカ銀

中銀カプセルタワーは黒川紀章によって設計され、1972年に竣工した。ちなみに黒川紀章はカプセルホテルの生みの親でもある。この写真にの円形の窓が付いた1ユニットがそのままワンルームとなっている。中心に電気系統などを集めたコアがあり、それにこのユニットが付いている。このユニットは取り替え可能であり、古くなったユニットから交換していくという仕組みだ。このプロジェクトにはゼネコンも協力しており、当時のメタボリズム、日本経済の盛り上がりを感じられる。実際にはユニットが取り替えられることはなく、現在取り壊しの危機に瀕している。メタボリズムに参加した建築家たちは大阪万博以後あたりから各々の道を辿り、運動は終わってしまった。


メタボリズムの説明が長くなってしまったが、本題のTOKYO METABOLIZINGの話に入ろう。メタボリズムは基本的に建物スケールで考えられていた。これを東京という都市に拡張して考えているのがTOKYO METABOLIZINGである。ニューヨークやパリなど世界の都市と東京を比較した時にその特異性は密にある。相続制度などの影響から敷地が細分化し、世界を代表する大都市の中でありながら、戸建て住居やペンシルビルなど細かいスケールの建物が多く存在している。また、地震など災害大国のためか日本はスクラップアンドビルドの文化であり、戸建ての住宅は平均寿命が26年と著しく短い。その結果、東京では都市スケールでみた時に建物が細胞の用に入れ替わっていくことで結果としてメタボリズムが起きているのではないかという見方がTOKYO METABOLIZINGの主張である。


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<a href="https://www.photo-ac.com/profile/1672277">ponpokopon</a>さんによる<a href="https://www.photo-ac.com/">写真AC</a>からの写真

本の中ではキャットストリートが例として取り上げられていた。キャットストリートを中心に小売店の多いこのエリアはもともと完全な住宅地であった。それが少しづつ住宅が小売店へと建て替えられ、今や商業地の割合が80%となっている。この緩やかな変化こそ都市スケールでのメタボリズムだ。トップダウンで整備された訳ではなく、必要に応じて建物が少しづつ建て替わり結果として都市全体が変わっている。キュレーターである北山恒らはこれをヴォイド・メタボリズムと名付けている。本の中ではさらに西沢立衛の森山邸やアトリエ・ワンの作品、北山恒自身の作品を例にこれからの東京をより良くするために必要な要件を探っている。以降興味のある方はぜひ読んで欲しい。


東京という都市は小さな建物の集積でできている。丸の内や六本木など稀有な例を除いて、東京で行政や巨大資本がトップダウンで街を変えることは難しい。だが逆に捉えれば、小さなものからボトムアップで変えられる可能性を秘めているとも言える。だが一つ一つの小さな建物で大きな都市を変えるのは気の遠くなるような作業だ。建築に関わらず多くの人がこの考え方を共有し、都市のこと、隣人のことを考えれば少しづつ街は良くなっていくだろう。祈りに近いような想い、思想をこの本から感じた。


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